2017年 04月 22日
他国への妙な偏見から自由になるのは意外に難事~菅茶山、知人の誕生祝いで大失態~
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他国へのイメージというのは、時に妙な形に歪んだものになることがあります。我々が他国に抱くイメージも、他国が日本に抱くイメージも同様です。
そして、どうやらそれは昔も変わらないようです。という訳で、今回は徳川後期において、当代を代表する知識人が、そうした偏見丸出しな言動をしまった事例について見てみましょう。森鴎外『伊沢蘭軒』で取り上げられた逸話です。
そして、どうやらそれは昔も変わらないようです。という訳で、今回は徳川後期において、当代を代表する知識人が、そうした偏見丸出しな言動をしまった事例について見てみましょう。森鴎外『伊沢蘭軒』で取り上げられた逸話です。
徳川後期に、菅茶山という学者がいました。儒者として、詩人として著名です。福山藩に仕え、備後神辺に私塾「黄葉夕陽村舎」を開き子弟を教育しています。頼春水ら文人たちと広く交際した事でも知られています。
茶山がやらかしてしまったのは、蘭学者・大槻玄沢が六十歳を迎えた祝いの時のこと。御存じの方も多いでしょうが、大槻玄沢は杉田玄白・前野良沢から薫陶を受け、医術やオランダ語を学んだ人物です。更に日本初の蘭学塾「芝蘭堂」を開き多くの俊英を育て、蘭学入門書『蘭学階梯』も著しています。さらに、ハイステルの外科書の抄訳やショメールの百科事典の翻訳に関与したり、海外情勢について記した『環海異聞』『捕影問答』を記して徳川政権の対外政策にも関わりを持っています。蘭学発展に大きな役割を果たした大物といって差し支えありません。
茶山は、この玄沢へ還暦祝いに贈った詩の中で少々問題のある発言をしてしまったようです。なお、以下の括弧内は森鴎外『伊沢蘭軒』よりの引用となります。
茶山がやらかしてしまったのは、蘭学者・大槻玄沢が六十歳を迎えた祝いの時のこと。御存じの方も多いでしょうが、大槻玄沢は杉田玄白・前野良沢から薫陶を受け、医術やオランダ語を学んだ人物です。更に日本初の蘭学塾「芝蘭堂」を開き多くの俊英を育て、蘭学入門書『蘭学階梯』も著しています。さらに、ハイステルの外科書の抄訳やショメールの百科事典の翻訳に関与したり、海外情勢について記した『環海異聞』『捕影問答』を記して徳川政権の対外政策にも関わりを持っています。蘭学発展に大きな役割を果たした大物といって差し支えありません。
茶山は、この玄沢へ還暦祝いに贈った詩の中で少々問題のある発言をしてしまったようです。なお、以下の括弧内は森鴎外『伊沢蘭軒』よりの引用となります。
問題の茶山の詩、何がまずかったのかといいますと。茶山がこの時に賦した詩のテーマは、「蘭人短命」というものであったです。その詩を受け取った玄沢は、「此篇を得て喜ばなかつた」とのこと。まあ、当然でしょうね。蘭学の普及に大きな役割を果たした玄沢に対し、オランダ人を貶めるかのような題材での詩を送りつけたのですから。現代人の視点からすれば、喧嘩を売っているのではないか、とさえ思わされる話です。
もっとも茶山は、自身としては別にオランダを貶めた積りはなかったようです。詩の中で「神医往々出華佗」とも言って、オランダの医学を褒めたたえてもいますから。そして、玄沢の優れた医学が逆に西洋にも影響し、オランダ人の寿命も結果として伸びるであろう、といった内容で玄沢を持ち上げた積りだったようで。
この詩を受け取った玄沢から「短命は舟にのる人ばかりにて、本国は長寿のよし也」という事を教えられ、茶山は意外の念を漏らしています。本気で、「蘭人短命」説を信じていたようですね。
この詩を受け取った玄沢から「短命は舟にのる人ばかりにて、本国は長寿のよし也」という事を教えられ、茶山は意外の念を漏らしています。本気で、「蘭人短命」説を信じていたようですね。
この逸話は、鴎外の著作だけでなく、富士川英郎による菅茶山の伝記にも記されています。なお、鴎外は茶山の詩について「大槻氏に喜ばれなかつたのは怪むに足らない」とばっさり述べています。同感です。茶山ほどの人物すらこの弊に陥ってしまったのか、とこの手の問題の根の深さを思い知らされる感がありました。
ただ、これは人ごとではありません。我々も、外国、そして異文化や他人に対して知らず知らずのうちに妙な決めつけをもって見ていることは多々あります。まあ、あまり神経質になるのもそれはそれで問題かとも思いますが、それでも、勝手な思い込みを持たず、相手の実像への関心を常に持っているよう心しなければならないな、と思いつつ今回はこれまでといたします。
【参考文献】
「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)より
「森鴎外 伊沢蘭軒」(http://www.aozora.gr.jp/cards/000129/files/2084_17397.html)
富士川英郎『菅茶山』筑摩書房
富士川英郎『儒者の随筆』小沢書店
『日本人名大辞典』講談社
『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞社
「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)より
「森鴎外 伊沢蘭軒」(http://www.aozora.gr.jp/cards/000129/files/2084_17397.html)
富士川英郎『菅茶山』筑摩書房
富士川英郎『儒者の随筆』小沢書店
『日本人名大辞典』講談社
『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞社
まだまだ今以上に未熟な時期の古い記事ですが、この手の話題では外せないかな、と。まあ、「勝手なイメージ」については、それを承知の上で「変なイメージにとらわれる自身」をネタにする、という視点が落としどころになるのかな、とも思っています。
「「侍」の語義変遷について~「ファーストサムライ」から「ラストサムライ」まで?~」
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by trushbasket
| 2017-04-22 10:40
| NF








