2017年 12月 02日
責任取る気もないのに、関係ない他人のプライベートに踏み込むな~「竹林の七賢」劉伶の一喝~
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ある程度の年数を生きていると、「関係ないはずの人からプライベートに踏み込まれて苛立つ」という経験は多くの方がされているかと思います。「善意なのは分かるのだけど…」と思いつつも癪には障る。これ、昔から変わらないようです。まあ、他人から言われることに余り頑ななのもどうかと思いますけれど、「あちらには直接害はないはずだし。助言に従って良くない結果になっても、向こうが責任取ってくれる訳じゃなし」と感じるのも人の情として自然な話。太宰治じゃないですが、
世間というのは、君じゃないか
世間じゃない。あなたが、ゆるさないのでしょう?
(太宰治『人間失格』より)
と心の中で毒づいた経験をされた方は、決して少なくないのでは無いかと推察いたします。「元ニート」と世間で言われたりする著述家(?)pha氏もそうした思いをされたようで、
たまに親しくもないのに自分の価値観を押し付けてきて「そんな生き方は間違っている」「世の中はそんなものは認めないぞ」とか言ってくる人がいる(pha『持たない幸福論 働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない』幻冬舎文庫より)
と著作中で述べておられます。なお、そんな時には「別の宗教の人」(同書より)と思うようにしているのだとか。
今回は、少しそうした事例に関連した話を中国史から見てみようかと思います。
三国の魏およびその後継王朝である晋の時代には、「竹林の七賢」と呼ばれる人々がいました。政情不安定な乱世を生き抜く智恵として、老荘思想を背景に自由気ままな隠遁生活を送ったとされる知識人たちのことです。その一人に、劉伶という人物がいます。彼は沛国(はいこく)の人で字は伯倫。一時期仕官した事もあったようですが、自由気ままで酒浸りの生活を送り礼儀などに束縛された俗世間に背を向けた人生を過ごしました。文人としては、『酒徳頌』という作品を残しています。
そんな人物でしたから、世間からの風当たりもあったでしょうし、それを人一倍うるさがったであろう事も想像に難くありません。
そんな人物でしたから、世間からの風当たりもあったでしょうし、それを人一倍うるさがったであろう事も想像に難くありません。
逸話集『世説新語』任誕第二十三には、こんな話が残されています。
劉伶嘗縦酒放達或脱衣裸形在屋中人見譏之伶曰我以天地為棟宇屋室為褌衣諸君何為入我褌中
(『世説新語 下』育徳財団)
※「褌」は参照した原本では左が「巾」、右が「軍」
(超意訳)
劉伶は、かつてほしいままに酒を飲んでフリーダムに過ごし、あるときは屋内で衣を脱ぎ素っ裸であった。ある人がこれを見て苦言を呈したところ、劉伶はこう言った。「私は天地を家とみなし、家屋を褌と思っている。諸君はなぜ、人の褌の中までずかずか入ってくるのかね」
まあ劉伶の言行をそのまま肯定することは決してできません。少なくとも酒浸りな生活ぶりが不健全なのは改めて申し上げるまでもないですし、夫の身体を心配して酒をやめるよう懇願した妻の言葉を袖にするなど家庭人として大いに問題あるのも事実ですから。もっとも劉伶自身は、もし自分が死んだらその場ですぐに埋めろと従者に命じ、鋤を常備させていたそうですから、酒浸り人生がもたらす結果については承知の上、覚悟の上だったのでしょうけど。…それでも、周囲の人間はたまりませんわな。
もっとも、劉伶一人がこんな感じだった訳でなく、当時の知識人には無軌道さを見せつけるような人物が珍しくなかったそうです。
もっとも、劉伶一人がこんな感じだった訳でなく、当時の知識人には無軌道さを見せつけるような人物が珍しくなかったそうです。
ともあれ、この逸話、直接利害関係がないはずの他人から、自身の領域にズカズカ踏み込まれる不快さというのをよく表しているとは思います。そして、なかなかに面白い物言いだと感じたので、今回ご紹介した次第です。
【参考文献】
「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)より
「太宰治 人間失格」(http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/301_14912.html)
pha『持たない幸福論 働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない』幻冬舎文庫(kindle版)
『日本大百科全書』小学館
『尊経閣叢刊 世説新語 下』育徳財団
井波律子『酒池肉林 中国の贅沢三昧』講談社現代新書
「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)より
「太宰治 人間失格」(http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/301_14912.html)
pha『持たない幸福論 働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない』幻冬舎文庫(kindle版)
『日本大百科全書』小学館
『尊経閣叢刊 世説新語 下』育徳財団
井波律子『酒池肉林 中国の贅沢三昧』講談社現代新書
下は酒癖に問題があった歴史人物の話。
「人は、欠点すらも使いよう?~津軽の殿様は考えた、酒癖悪い家臣も発想転換でホレこの通り~」
「人は、欠点すらも使いよう?~津軽の殿様は考えた、酒癖悪い家臣も発想転換でホレこの通り~」
by trushbasket
| 2017-12-02 22:55
| NF








