2018年 02月 03日
南北朝を題材とした楽府をまた見る~頼山陽『東魚西鳥』~
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今回も、頼山陽『日本楽府』から、南北朝関連の作品を味わってみようかと思います。要は、ネタが苦しいのです。今度のお題は、『東魚西鳥』。『南木夢』と同様、楠木正成絡みの一品です。
正成が鎌倉側を相手に大阪平野で転戦している時期の事として、『太平記』は以下の逸話を伝えています。戦いの合間を縫って、正成は四天王寺に参詣し馬や武具を奉納。さて、かねてから四天王寺が聖徳太子が未来を予言した書を秘蔵していると聞いていた正成、この際に寺の僧に閲覧を申し入れます。特別に許可を得てその書物を披見した結果、正成はその記述から鎌倉政権が遠からず倒れることを知ったとされています。
なお、この時に正成が閲覧した文書「天王寺未来記」についての詳細は、こちらを御参照ください。今回扱う『東魚西鳥』は、この「未来記」を題材にしています。では、見てみましょう。
東魚西鳥
東魚坐呑四海。日沒西天三百七十日。
西鳥呑魚海宇一。何圖更有獮猴黠。
獮猴何能逞跳擲。君王羈策用無術。
(坂井松梁編『詠史詩集 日本楽府詳解』青山堂 121-122頁)
<読み下し>
東魚 坐して四海を呑み。日 西天に沒する三百七十日。
西鳥 魚を呑み海宇 一なり。何を圖(はか)らん 更に獮猴の黠なる有るを。
獮猴 何ぞ能く跳擲を逞する。君王 羈策 用るに術無し。
<超意訳>
東方の魚、すなわち鎌倉方が坐して天下を併呑した。
太陽が西に沈むかのように、後醍醐天皇が西の隠岐に流された。それから三百七十日がたった時。
今度は西の鳥、すなわち後醍醐側が魚たる鎌倉を飲み込んで、天下を朝廷の下で一つにした。
そんな中で、更に狡猾な猿がいるなどと、どうして予測できようか。
それにしても、猿はなぜかくも思いのままに跋扈できたのだろう。
それは、後醍醐天皇が残念ながらうまくこれを操縦できなかったからだ。
平仄は、下記の通り。○が平声、●が仄声。△は両方可。▲は仄声で韻脚。なお、平仄についてはこちらを参照ください。
○○●○●● ●●○○△●●●▲
○●○○●●▲ ○○●●●○●
●○○○●○● ○○○●●○▲
韻脚は「日、一、術」の入声四質。同じ韻のみを持つ「一韻到底」の作品に分類されます。なお、韻については下記サイトで詳細は調べました。韻が仄声だったので。やはり、韻をどの句で踏むかは絶句・律詩などと比べ自由度が高いのが分かります。
関連サイト:
「韻と平仄を検索するページです」(http://tosando.ptu.jp/kensaku.html)
全体を見るに、「未来記」の表現が最大限活かされているのがおわかりいただけると思います。では、以下で補足説明を適宜行って参ります。
・「東魚」:東国たる鎌倉政権を暗喩しています。「未来記」に準拠した表現です。
・「四海」:四方の海の内側、という事で天下を意味します。
・「西鳥」:西側、すなわち朝廷側を暗喩。「未来記」に準拠した表現です。
・「海宇」:同じく天下を意味する言葉。「宇」とは家を覆う庇、転じて大きな空に覆われた世界を表します。
・「獮猴」:猿の事、ここでは建武政権を顛覆させた足利尊氏を暗喩しています。「未来記」に準拠した表現です。
・「黠」:ずるがしこい、狡猾である。
・「跳擲」:飛びはね、投げつける。はね踊る、といったニュアンスのようです。
・「逞」:たくましくする、思うがままにする
・「羈策」:羈は手綱、策は鞭。
頼山陽、後醍醐にも結構手厳しいですね。まあ、君主の武力が弱体な場合、最大武力を有する臣下の扱いが難しいのは致し方ない面はあります。あと、尊氏本人は後醍醐への敬愛の念を持ち続け、敵対は不本意だったようですので、「ずる賢い猿」呼ばわりはちょっと気の毒な気もします。まあ、徳川時代と現代では、南北朝の見え方が大きく異なるのはやむを得ませんね。ここはあまり細かい事を気にせず、頼山陽の着想や「未来記」中の表現を取り入れる巧みさを味わっておけば十分かと思います。
【参考文献】
坂井松梁編『詠史詩集 日本楽府詳解』青山堂
『日本大百科全書』小学館
『大辞泉』小学館
『角川新字源改訂版』角川書店
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬舎ルネッサンス
兵藤裕己『太平記』(一)(二) 岩波文庫
村松剛『帝王後醍醐』中公文庫
亀田俊和『南朝の真実 忠臣という幻想』吉川弘文館
坂井松梁編『詠史詩集 日本楽府詳解』青山堂
『日本大百科全書』小学館
『大辞泉』小学館
『角川新字源改訂版』角川書店
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬舎ルネッサンス
兵藤裕己『太平記』(一)(二) 岩波文庫
村松剛『帝王後醍醐』中公文庫
亀田俊和『南朝の真実 忠臣という幻想』吉川弘文館
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※2018/2/3 投稿直後、少し未来記に関する記述を修正
by trushbasket
| 2018-02-03 11:52
| NF








