昨年来の「室町ブーム」のせいか、室町時代関連の書籍が陸続しているのは個人的にうれしい限り。今回ご紹介するのは、榎原雅治・清水克行編『室町幕府将軍列伝』(戎光祥出版)。文字通り、足利歴代将軍15人に関して列伝形式でまとめた一冊です。
初代尊氏から、最後の義昭までその生涯や注目すべきポイントについてまとめ上げているので読み応え十分です。まあ、強烈な個性の面々を一冊にまとめないといけないので、意外と有名どころの将軍は割を食ったりしていますが。それでも、有名どころは有名どころでこれまであまりなかった側面から論じられたりしていますから、十分に面白い。一例をあげますと、第六代・義教の富士遊覧を、詳細な旅程から政治的視点も含めて解析・論説している件は個人的に印象的でした。
あと、何人かの将軍は、従来のイメージが変わるかと思います。義詮とか義政とか。中でも特筆すべきは、政治的に無力化したとして無視されがちな戦国期の将軍たち。本書は彼らについても、多くのページを割いて論説しています。戦国期の将軍たちが決して無視できない影響力を保持していたこと、非常に意欲的に政権運営に取り組んでいたこと、一定の政情安定が実現した時期も往々にあったこと。これらの事実は今後、歴史ファンの間でも注目されていくのかな、と思われます。
更に。本書で扱われているのは、将軍だけではありません。将軍にはならなかったものの、政治史を語る上で重要な将軍家の人々にもコラムという形で光が当てられています。例えば直義(初代・尊氏の弟)、義嗣(第四代・義持の弟)、義視(第八代・義政の弟)、義維(第十二代・義晴の兄弟)といった面々。足利将軍家ファンにとっては、これだけで外せない一冊だといえるかと思います。本書でも言及されていましたが、「将軍と将軍の弟との関係」が政治的な不安定要素になり続けてきたのが足利将軍家の歴史と言えそうです。
ところで。本書等から垣間見える戦国期の将軍たちの姿には、個人的になぜか既視感を覚えるものがありました。
・非常な貴種であり、権威は非常に強い。
・一方で、軍事的実力は弱体。
・そのため、軍事的実力者の助けを借りて政権運営を図るが、その実力者と対立して政権は破綻する。
・基本的に、生命力が強くしぶとい。
・政権が破綻して都を追われても、めげない。
・逃げた先で亡命政権を樹立、結構機能している。
・権威を利用して、高い外交能力で敵対者への包囲網を形成する。そして結構成果を上げる。
・時にはそれが奏功して政権奪還を果たす。
・うまくいかず客死することもある。
こうして箇条書きしてみて、腑に落ちました。この時期の将軍たちは、どこか後醍醐天皇に通じる気がします。将軍家が義澄系と義稙系に分かれて並立・対立していた辺りも南北朝を思わせますし。思えば、初代将軍・尊氏は軍事的実力者として後醍醐天皇の建武政権を支えながらも、最終的に決裂する形で独自の政権を樹立した人物です。その子孫たちが、当時の後醍醐を思わせるような立場に置かれ、後醍醐にどこか通じるような政治行動をしていたあたりは、何だか興味を惹かれます。