2018年 06月 10日
足利義昭の漢詩を鑑賞する~個人レベルでは文武とも自信あったんでしょうねえ…~
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足利政権の最後を飾る将軍といえば、足利義昭。彼は、戦国末期に覇を唱えた織田信長と密接な関わりをもった人物だけに、知名度は結構高めです。従来は、信長の傀儡である事に反発し調略や陰謀で信長に対抗した、とされる義昭。しかし、近年の研究では畿内統治に関しては義昭が主導権を握っていたとされているようです。
さて。この義昭、将軍家という名門の生まれだけあって漢詩の心得があったようです。今回は、彼が将軍となる前の亡命時代に残した作品を味わってみようかと思います。時は永禄八年(1565)。兄である第13代将軍・義輝が三好氏に暗殺されたため、当時は奈良一条院の門主であった義昭(この時は、「覚慶」といいました)も身の危険を感じて近江に難を逃れたのです。その時に、先を憂えて残した詩になります。
避亂泛舟江州湖上
落魄江湖暗結愁
孤舟一夜思悠悠
天公亦怜吾生否
月白蘆花淺水秋
(『新釈漢文大系 日本漢詩 上』明治書院 112頁)
<読み下し江湖に落魄して暗に愁を結ぶ孤舟 一夜 思 悠悠天公 亦 吾が生を怜れむや否や月は白し 蘆花淺水の秋(同書 同頁)
<超意訳>
戦乱を避けるため近江の琵琶湖上に舟を浮かべて
世間を落ちぶれて漂い、琵琶湖に逃れていると、ひそかに心の内に憂いが生じてくる。
ただ一隻舟を浮かべて一夜を過ごすと、鬱々として楽しまぬ気分である。
天もあるいは私の生涯を哀れんでくれているのかどうか。
月が白くさえわたって蘆の花を照らし、湖水は浅くみえる秋であることよ。
平仄は下記の通り。○が平声、●が仄声。△は両方可。◎は平声で韻脚。なお、平仄についてはこちらを参照ください。
●●○○●●◎
○○●●○○◎
○○●○○○●
●●○○●●◎
韻脚は「愁、悠、秋」で「下平声十一尤」。
以下、語句の解説です。
・乱:兄にあたる将軍・足利義輝が暗殺された事件をさす。
・落魄:落ちぶれること。
・江湖:世の中のこと。朝廷と対比し、民間世界をさす。ここでは、近江の湖、すなわち琵琶湖をも指している可能性あり。
・悠悠:愁いて思い悩むこと。
・天公:天、天帝。
・怜:あわれむ。
・浅水:浅瀬のこと。
危急の中での憂わしい心情をなかなか巧みに表現していると思います。流石に名門らしい教養を感じさせますね。思えば、義昭は以前の記事で触れたように個人武勇もなかなかのものでした。文武とも、個人能力としては相当に心得も自信もあったのだろうなと思わされます。だとすると、将軍として自ら恃むところすこぶる厚かったのも納得です。
とはいえ、将軍として置かれた環境はなかなか厳しく、政権運営も相当なバランス感覚を要する状況ではありました。それだけに、強い自負心が逆に負の方向に働いた面はあるのかもなあ、と余計なことをも考えさせられる一品です。
【参考文献】
『新釈漢文大系 日本漢詩 上』明治書院
『角川新字源改訂版』角川書店
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬舎ルネッサンス
久野雅司著『中世武士選書40 足利義昭と織田信長』戎光祥出版
『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞出版
『世界大百科事典』平凡社
『日本大百科全書』小学館
『大辞泉』小学館
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by trushbasket
| 2018-06-10 13:23
| NF








