熊がきっかけで落城した事がある~軍の隠密行動が動物に気付かれた一例?~
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刈藻掻きたる臥す猪、朽木の虚ろなる熊ども、人影に驚いて、前なる篠原を二、三十連れて落ちたりける。(兵藤裕己校注『太平記(四)』岩波文庫 336頁)
夜討にはなくて、背ろの山より熊の落ちて通りけるぞ。止めよ殿原。(同書 同頁)
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2018年 11月 18日
軍隊の隠密行動が、動物に気取られる。軍記物を読んでいると、そうした事例を目にします。 有名なところでは、後三年の役における源義家。叢の上空で雁の群れが乱れたのを見て、敵の伏兵がいるのを悟った逸話が残っています。これ、かつて兵法を学んだ成果なんだとか。 次に、源平合戦の初期にあたる富士川の戦い。水鳥の群れが飛び立つ音に驚いて、平家軍が逃亡した事で知られる戦いです。もっとも、「水鳥が飛び立ったのは、甲斐源氏の軍勢が平家の背後に廻り夜襲をかけようとした気配を察したためだ」という説もあるようで。だとすれば、これも軍勢の隠密行動が動物に気取られた一例といえるでしょう。 さて。『太平記』第二十八巻にも、これに通じるような逸話があります。観応の擾乱前夜、足利政権の内紛が表面化し、政務を担当していた足利直義(将軍・尊氏の弟)が失脚した直後の話。直義の養子・足利直冬に味方する勢力が山陰は石見で挙兵したため、足利政権は高師泰を大将として討伐しようとしました。 そして、直冬方のとある城を包囲した時の事。城はなかなかに堅固で、力攻めでは落としにくいと思われました。そんな中、師泰軍の中で有志の武者たちが、間道を使って夜襲をかける事にしたのです。 いよいよ実行の晩。彼らは密やかに行動するのですが、どうしても全く気配を消すことはできなかったようで 刈藻掻きたる臥す猪、朽木の虚ろなる熊ども、人影に驚いて、前なる篠原を二、三十連れて落ちたりける。(兵藤裕己校注『太平記(四)』岩波文庫 336頁) とあるように、山中の猪や熊に気取られて驚かせてしまったそうです。ここで面白いのは、猪や熊たちが逃亡を選んだこと。逃げる熊たちが城の前を通過すると、物音に驚いた城兵たちは「夜討の入るよ」(同書 同頁)とばかり急いで持ち場につき様子をうかがうのですが、熊たちの姿を見て 夜討にはなくて、背ろの山より熊の落ちて通りけるぞ。止めよ殿原。(同書 同頁) と夜襲でない事にまずは安堵。ここで面白いのは、三百人以上の城兵たちが、「止めよ」という声に応じて「われ先に射取らん」(同書 同頁)と弓をもって熊の後を追いかけて出撃した事。城には五十人程度が残るだけになり、城門も開きっぱなしだったとか。そこで夜襲の兵たち二十七人が突入したので、城はひとたまりもなく落城。熊狩りに出撃していた兵士たちも、いたしかたなく落去したそうです。 籠城戦最中にもかかわらず、戦いそっちのけで猛獣狩りに出撃。これにも恐れ入りますが、熊相手でも勇んでヒャッハーしているのも現代人からすれば驚く他ありません。それも、猪も入れて数十頭の相手に。猛獣にも怯まない闘争心と、それに引きずられてともすれば本来為すべき事も忘れてしまいかねない危うさ。そう見れば、良くも悪くも、乱世の武士らしい逸話かと思います。 大局に影響を与えたとは言い難い戦いなので、世間で知られていないのは仕方ないかとは思います。ただ、色々と興味深い話なので今回ご紹介した次第。 あと、読み取れる教訓としては、「動物が近くで騒ぎ出したら、近くに敵軍が動いているかもだから要警戒」という事でしょうか。使いどころのない教訓である事を切に祈りますが。 【参考文献】 黒川真道編『日本歴史文庫 三』集文館 『奥州後三年記』などを収載 梶原正昭・山下宏明校注『平家物語 二』岩波文庫 兵藤裕己校注『太平記(四)』岩波文庫 『日本人名大辞典』講談社 『日本大百科全書』小学館 関連記事: やはり南北朝期の、軍勢における集団心理っぽい話。 闘争心溢れる武士たちの統率に苦労したのは、戦国も同じのようです。 こちらも、軍勢の統率に関する苦心の話。
by trushbasket
| 2018-11-18 16:00
| NF
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