<読書案内>永井荷風『下谷叢話』~幕末・明治期の文人たちの肖像~
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2019年 01月 06日
昨年は、明治維新150年だったそうですね。思えば、我が国は近代に入って以降、数多くの転機を迎え文化・風俗を大きく変化させてきました。良い悪いは別として。大正の関東大震災もまた、そうした転機の一つだったようです。多くの古くからの街並み、そして文化がこれを契機に焼失したと聞きます。それを惜しみ嘆いた文学者に、永井荷風がいました。今回ご紹介するのは、関東大震災を契機として荷風が発表した『下谷叢話』(岩波文庫)。幼児期に親しんだ下谷、そしてそこに居を構えた外祖父・鷲津毅堂やその師にあたる大沼枕山の生涯を、共感をもって描いた伝記ものです。この二人を中心に、幕末から明治にかけて江戸・東京の漢詩壇を賑わせた文人たちが活写された一品です。 一応、二人について辞書的な説明をば。 大沼枕山(1818-1891): 幕末維新期の漢詩人。徳川政権に仕えた大沼竹添の子として生まれた。名は厚。父の死後は尾張に身を寄せて従兄にあたる鷲津益斎に漢学を学び、江戸にもどった後は詩人として名をあげ梁川星巌・小野湖山らと親交を結んだ。嘉永二年(1849)に下谷吟社はやがて江戸詩壇の中心的存在となったが、明治期以降は兄弟弟子・森春濤の茉莉吟社にとってかわられる。枕山が時代に背を向け旧時代の遺民として振る舞ったのも一因であるという。枕山の詩風は南宋詩人たちを思わせる抒情的なものであったとされる。詩集『枕山詩鈔』など。 鷲津毅堂(1825-1882): 幕末維新期の漢詩人・儒学者。名は文郁あるいは重光。のちに宣光。尾張出身。父・鷲津益齋に教えを受け、昌平黌に入る。清の軍事海防史『聖武記』の抄出本(『聖武記採要』)を出版したため徳川政権に睨まれ、房州に逃れた事もある。後に尾張藩で明倫堂教授を務め、維新期には藩論を勤王に統一させるのに大きく貢献した。明治新政府の下では、大学少丞や登米県権知事、文部省宣教判官、司法判事など官職を歴任している。永井荷風は娘婿の子。著作には『親燈余影』など。 個人的にうれしいのは、本書が森鴎外晩年の傑作である『渋江抽斎』『伊沢蘭軒』を思わせる筆致である事。無論、これは鴎外を師と仰ぎ尊崇してやまなかった荷風が意図的に倣ったものでありましょう。大好きなシリーズ作品のスピンオフに出会えたような、そんな気分を味わえました。まあ、個人的には鴎外の手による作品群の方が、脱線も多い分だけ読んでいて楽しかったのですが、その辺は好みの範疇でしょうね。 とはいえ、鴎外の史伝ものと異なる点もあります。鴎外は職業柄、扱ったのは医を修め儒を学んだ人々でした。一方で荷風が描いたのは、文人として詩壇を賑わせた面々。同じ江戸期の知識人とはいえ、少し気質が違うようです。というより、鴎外と荷風で、照らし出した側面が幾許か違うと見た方が良いのかもしれませんが。鴎外が取り上げた面々も、詩文を好んだ点では違いはありませんでしたから。 面白いのは、直系の祖である毅堂よりも枕山の方に、荷風はより大きな共感を寄せていたようです。時代の変遷に深くかかわり一定の栄達を遂げた外祖父と異なり、政治の流れに背を向けて隠逸の気風を有した所が自らと重なったのかもですね。そういえば、枕山の作品を紹介するついでに自らの非社交性に関する弁明とか、大正当時の空気に対する些か感情的な愚痴とかが漏れている辺りも、荷風らしいと微笑ましく思われました。 枕山・毅堂の作品も多数引用されていますから、幕末・維新期における文人の生き方や動向だけでなく、漢詩作品に興味がある方も手に取る値打ちがある一品じゃないかと思います。 【参考文献】 永井荷風『下谷叢話』岩波文庫 『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞出版 関連記事: 明治期の漢詩壇に関する概説。枕山や毅堂の名も出てきます。 荷風の代表作と言えば、こちら。 荷風が敬慕した鴎外による、史伝の傑作。
by trushbasket
| 2019-01-06 20:03
| NF
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