2019年 04月 24日
<OBサイト記事再掲>【現代語訳】本居宣長のお遊びな擬古文『八月ついたちごろ・・・(以下略)』
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※OBサイト「れきけん・とらっしゅばすけっと」で掲載していた記事です。当該サイト消滅に伴い、最低限の修正を経て本ブログにて再掲載いたします。
本居宣長『手枕』おまけ・「八月ついたちごろ稲掛大平が十五夜の円居に出すべき月の文ども人々すすめて源氏物語の詞つきをまねびてかかせけるにたはぶれにかける文」 翻訳:NF
はじめに
今回ご紹介するのは、本居宣長の手による擬古文「「八月ついたちごろ稲掛大平が十五夜の円居に出すべき月の文ども人々すすめて源氏物語の詞つきをまねびてかかせけるにたはぶれにかける文」の現代語訳(by NF)になります。
これは、宣長の歌文集「鈴屋集」に収録された短文で、製作年度は不詳。大平が宣長の養子になる前ですから寛政十一年(1799)以前である事は確実ですが。
題名から分かるように、八月十五日の歌会に源氏物語の言葉遣いをまねて文章を書くように勧められて作ってみた文章です。仲間内の会合で、いわばおふざけで書いた一品ということもあって、肩の力を抜いて作ったもののようです。とはいえ、中々本格的な擬古文ですが。
現代語訳
八月十日過ぎごろ、月がたいそう趣深い夜、家の外近くに座って、大平(※1)が進めている十五夜の会への文も、今日明日あたりになったのを、何を書いたらよいであろうかと、あれこれと思いをめぐらしながら、外をぼんやりと見て物思いに耽っていると、耳慣れない物音が、遠くに聞けるので、「不思議だ、何の音であろうか」と思っているうちに、段々と物音が近くなる様子は、若い時に京にいた頃に見た、賀茂神社の祭(葵祭)で通った、山車の音がこの様であったと、聞きわきまえていると、ますます不思議になって、どうにか考え及んだ内容も、どこへいってしまったのか、ただこの物音に耳を留めてじっとしていると、音はこの家の門の前に留まって、人が入ってくる気配がする。ますます不思議で、家人を出して様子を見させたならば、すぐに家人が帰ってきて、「見慣れない格好をしている人がいらっしゃっています。」と言うので、膝を付けたままそちらに出て、伊予簾に隠れて覗いてみると、簾を通して見える姿が小奇麗な男性で、狩衣姿をしている男が出てきて改まった声色を作る。
また人が来るのを見れば、仲間と思われ、髪の具合が全く見慣れない女性で袴を履いているのが、裾を少し持ち上げ、片手には、扇を持ち顔を隠している手つきなどは、大変優美に見える。幼い女性や童女らが三四人後ろに立っている様子も、皆感じが良い様子であった。宵のうちから鳴いていた庭の松虫が、鳴き止んでいるのも、この人のせいだろうかと興味深く思われ、月が薄雲に隠れた様子の光で、かえって姿がはっきり見えるので、服の模様も見分けられる所からは彼らはこの世の人とは思われない。
そうはいっても昔の物語などでは、いつもの事で、そう言う位には驚くべきほどの人とも見えなかったので、とりあえずは、「田舎びた様子で、すぐに外に出て、言い出すべき言葉も思いつかず、どのようにしたらよいか。」と動揺したが、このままでいるわけにもいかなかったので、無理に心を静めて、使い古しているけれど敷物のありあわせたものを、自身で持って出て、「大変粗末ではございますが、ただしばらくはこれで御勘弁を。」といって、心配りとして敷いたところ、この男性がすのこ(※2)のもとに寄って来て、「夜中のこのような突然の訪問を、定めし不審に思っておいででしょう。しかし昼間に女君がこちらにいらっしゃるわけにはいかなかったので、世間から隠れて、あえて夜が更けて訪問したのです。この御方は、昔に上東門院(※3)が、まだ中宮と申し上げた頃に、女院にお仕えなさって、紫と呼ばれなさった、式部の君。」と言うので、私は心が乱れて、本当に驚きあきれていると、夜更けになっていく風の様子が、たいそうひんやりと身に染みて、何となく寒いのであるが、月も華やかに姿を現している。
そうはいっても紫式部の君は扇を離さないので、その顔は見ることが出来ない。「近頃この辺りのお方たちが、光源氏の物語に、たいそう思い入れして、この度はその物語の趣向をまねた文章をお書きになると、風の噂に式部の君はお聞きになり、日ごろはどのようにこの喜びを申し上げに参ろうかと、仰っておられたのですが、今夜の月に誘われてでしょうか、こちらにいらっしゃったのです。」と男性が言ったところ、式部の君御本人も、「嬉しゅうございます。」とだけ、ただ一言仰るかすかな声も、言いようもなく上品でかわいらしく…(文章はここで終わっている)
※1:稲掛大平。宣長の弟子。後に宣長の養子となり家督を継ぐ。
※2:建物の外側にある竹を並べた縁側。
※3:藤原彰子。藤原道長の娘で、一条天皇の中宮。紫式部が仕えた。
おわりに
源氏物語の文体を真似た文を書こうとしたところ、紫式部の霊が感激してお礼を言いに来た…。…宣長先生、流石に少し悪ノリが過ぎる気がします。源氏と六条御息所の馴れ初めを描いた二次創作作品『手枕』を宣長が書いていた事は以前に述べましたが、『源氏物語』を意識しての同好の士向けのお遊びは他にもあったんですね。
【参考文献】
『本居宣長全集』第十五巻 筑摩書房
城福勇『人物叢書新装版 本居宣長』吉川弘文館
『日本大百科全書』小学館
『平安時代史事典』角川書店
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by trushbasket
| 2019-04-24 20:54
| NF








