2020年 01月 05日
<OBサイト旧記事再編>戦国・織豊期の隠遁茶人たち
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※OBサイト「れきけん・とらっしゅばすけっと」で掲載していた記事です。当該サイト消滅に伴い、色々と修正を経た上で本ブログにて再掲載いたします。
茶の湯を嗜んだ人々は、多くは大名であったり大商人であったり禅僧であったり大名に仕官する人であったり、近代では実業家だったりと富裕層なイメージがあります。しかしながら、無論それだけではなく、隠遁生活の中で茶を楽しんだ人々もおりました。戦国期・織豊期を中心にそういった面々を何人かご紹介します。
空海
生没年不詳。「空海」といっても真言宗の開祖ではない。島氏の出で、島右京とも。足利将軍家の同朋衆・能阿弥の下で小姓として茶を学んだ。台子に道具を飾る際に用いるのは長板(柄杓立・水覆・蓋置・水指を飾る)のみであったが、中板(柄杓立・水覆・蓋置を飾る)は彼が能阿弥に進言して考案されたとされている。後に隠者となって堺に住んだという。
北向道陳
1504-1562。堺の人で、隠者として生涯を送る。荒木氏の出。北向きの家に居住したためこう名乗ったという。空海より書院茶の湯を学び、千利休にこれを伝えた。松花の壷・虚堂墨蹟などの様々な名物道具を所持していた。茶室の突き上げ窓は、道陳が考案したものとも言われている。炭点前の見事さに定評があった。武野紹鴎と親交があり、利休は彼の紹介で紹鴎に弟子入りしたという。
松本珠報
生没年不詳。15世紀に生きた村田珠光門下の隠逸茶人。周宝とも。山名氏を経て畠山政長に仕え、応仁の乱後に隠遁して奈良に住み珠光から茶を学んだ。その後、京に移ってひたすら茶事を楽しむ。庵の近くにあった柳の井の名水を好み毎夜汲んでいたという。呂紀筆蓮鷺図・舟の花入・肩衝・松本茄子・青磁茶碗(松本茶碗)など様々な名物道具を所有した。
石黒道提
生没年不詳。村田珠光門下の隠逸茶人。奈良千福寺の代官を務め、畠山政長に仕えた。引退後は京都千本に住む。四十石と称した茶壷を所持していた。この壺は後に東山御物の一つとなる。足利義政が彼の庵に立ち寄った際、草鞋を履いていたため紙を露地に敷いた上で通った。そして道提はその通った後を参考にして、露地における石の配置を直したのが飛石の起こりといわれる。
粟田口善法
生没年不詳。村田珠光門下の隠逸茶人。珠光の下で茶法を究めた。『山上宗二記』によれば名物道具を持たず燗鍋一つで食事と茶の湯を楽しんだと言われている。尤も、実際には茄子形の手取釜を所持し行き交う人々に茶を勧めるのを楽しみとしていたようである。この釜の事を利休より聞いた秀吉は、伊勢の釜師・辻越後にその模造品を作らせて晩年に至るまで愛用したという。
禅海
生没年不詳。堺の人。一路庵とも。村田珠光から茶を学び、一休宗純と禅問答をしたとされる。生涯、清貧に甘んじる生活を送り人々はその徳を慕い食物を送っていた。窓の外に容器をつり出して施物を受け、手取り鍋一つでその食物を煮炊きすると共に、茶を楽しんだという。最後は断食して果てたともされる。
宗清
堺の侘び茶人。隠遁生活をし、自ら畑作業をして生計を立てた。必ず農作業は早くしまい鍬・鋤を洗ってから身を清めて茶を楽しんでいた。人々に諂わず茶の作法も知らず、高価な道具を使うのは心に叶わないと考えていたという。自分から人を近づける事はなかったが、人が望めば誰であっても拒むことなく茶を出したので人々から慕われた。武野紹鴎と親交があった。
丿貫(へちかん)
16世紀後半の茶人。上京の坂本屋の出身とされる。名医・曲直瀬道三の姪婿とも。茶の湯は武野紹鴎から学んだ。山科に居を構え悠々自適の生活を送り、奇行により知られる。清貧を重んじ、手取釜一つで雑炊を炊いたり茶をたてたりしていたといわれる。世間一般の茶とは異なっていたが、その徹底した侘びのため茶人たちから評価され交際があった。北野大茶会の折には、大傘を朱塗りにして周囲を葦の垣根で囲った席を設け、豊臣秀吉から賞賛され諸役免許の特権を与えられた。千利休と親交を結び共に茶の湯を楽しんだ仲であるが、一方で利休が権力と接近しすぎるのを危惧していたという逸話もあるようだ。
茶の湯といえば金のかかるもの、というイメージがあります。それも無論、間違いではありません。その一方、高価な道具に頼るのでなく創意工夫を重んじ、清貧の精神を重んじる一面があるのもまた事実。今回登場した面々も、隠遁生活の中で物質的不如意を問題にせず美意識・創意工夫を持って人生を楽しみ人をもてなしていた。そして、こうした有り方が世間からもしっかり評価されていたという事ですね。忘れられがちではありますが、こうした境地を重んじるのもまた、茶の湯の一面である。それを念頭に置きたいものです。
【参考文献】
桑田忠親『本朝茶人伝』中公文庫
『茶の湯人物事典 略伝・ことば・逸話』世界文化社
千宗室監修・井口海仙編『裏千家茶道教科教養編8 茶人伝』淡交社
千宗室監修・村井康彦編『裏千家茶道教科教養編9 茶道史』淡交社
筒井紘一『茶人と茶器』主婦の友社
末宗広著『茶道辞典』晃文社
『日本人名大辞典』講談社
『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞出版
「青空文庫」(https://www.aozora.gr.jp/)より
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歴史研究会関連記事:
「続茶の湯 数寄者たち」(http://kurekiken.web.fc2.com/data/1999/991029.html)
※2020/1/6 加筆。
by trushbasket
| 2020-01-05 14:30
| NF








