2020年 02月 02日
明智光秀の辞世?を見てみる~五言古詩?~
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今年の大河ドラマ『麒麟がくる』の主人公は、明智光秀。御存じの通り、彼は最終的に主君・織田信長を討つものの間もなく羽柴秀吉に敗れ命を落とします。そんな光秀が残したとされる辞世の句を取り上げようかと。
ひょっとしたら、光秀の辞世と聞いて
月さびよ 明智が妻の 咄せむ
を思い浮かべる向きもあるかも。この句、実際には松尾芭蕉の俳句とされているそうですが、あの漫画ではあえてこれを光秀の辞世という設定に採用し、ストーリーの流れに重要な役割を持たせたようで。なかなかに大胆な作意ですよね。
さて『明智軍記』巻第十によれば、光秀の辞世は以下の通り。
順逆無二門
大道徹心源
五十五年夢
覚来帰一元
(小和田哲男『明智光秀 つくられた「謀反人」』PHP研究所より)
順逆 二門無し
大道 心源に徹す
五十五年の夢
覚め来て一元に帰す
〈超意訳〉
従うも反逆するも結局は大差はないし、どのように仏縁を得るかも大きな違いはない。
人が従うべき大いなる道について、心の奥底まで染み通った感がある。
五十五年の我が人生は夢のようなもので、
今、そこから目覚めるかのように宇宙の根源へ帰っていくのだ。
ただし、『明智軍記』は元禄年間に成立した軍記物で、どの程度事実を反映しているかは大いに疑わしい様子。なので、実際に光秀がこの漢詩を残したのかも、疑問という結論になります。ただまあ、せっかくなので伝・光秀作という事でこの詩を見ていくことにしましょう。
この詩の平仄・押韻は以下の通り。○が平声、●が仄声、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。韻脚は「門、源、元」の上平声十三元。
●●○●◎
●●●○◎
●●●○●
●○○●◎
五言絶句としては平仄や韻の位置が合わないので、五言古詩と見るべきでしょうか。
以下で、語句解説を少々。
・順逆
通りに従う事と、背く事。恭順と反逆。仏教でいう順縁と逆縁。善行を契機に仏道に入る事を順縁、悪行がかえって仏道に入る機縁になる事を逆縁と呼びます。ここでは、順縁・逆縁と恭順・反逆をかけて用いたものでしょうか。「二門」という仏語に続くだけに。
・二門
仏教の教えを、内容によって大きく二分しこのように呼ぶそうです。ここでは、それに因んで大きく異なる二分野、といった意味合いに解釈。
・大道
人の行うべき道。道徳の根本。
・心源
仏語で、心の事。
・一元
物事のただ一つの根源、事の起こり。
全体的に、仏語が多い印象です。来世に赴く前の、辞世の句という事も関連しているのでしょうけど。主君を討った身の上と仏語を掛け合わせた古風な漢詩。そうした辞世の句を残しそうな教養人として、光秀のイメージは語り継がれてきたのが伺えます。
【参考文献】
小和田哲男『明智光秀 つくられた「謀反人」』PHP研究所
山田芳裕『へうげもの4』モーニングコミックス
復本一郎『芭蕉における「さび」の構造』塙書房
『角川新字源改訂版』角川書店
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『大辞泉』小学館
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by trushbasket
| 2020-02-02 21:49
| NF








