2020年 03月 11日
<読書案内>星新一『ようこそ地球さん』
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短編小説より更に短い、ショートショート。その第一人者といえば、星新一の名を挙げる人は多いかと思います。僕も、彼のファンの一人です。中高生時代から、その簡潔な文章から描き出される空想豊かな世界、込められたウィットなどに虜となりました。今回ご紹介するのは、星新一の初期作品集と言うべき一冊、『ようこそ地球さん』(新潮文庫)。
他の作品集同様、宇宙進出した人類や異星人との遭遇といったSFっぽい作品、未来を予知するかのような洞察力を窺わせる作品、人間のサガへの風刺が効いた一品なども多数収録。個人的には「テレビ・ショー」あたりが結構好み。実のところ、作中で問題視される現象そのものは人類にとって致命的な危機といえるかは微妙で、むしろそれに気付かず作中のような対応しかとれない当局の発想硬直の方がよほど危機的かも。これも、作者は理解した上で皮肉ってそうな感じもなかなか面白いと感じます。
それだけでなく、「小さな十字架」のような心温まるような内容のものもあったり。初期作品集だけに、それ以後とは雰囲気の違うものもちらほらあります。特筆されるのは、ショートショートというには長い短編もいくつかあること。作者が注目される契機となった「セキストラ」や、「処刑」「殉教」など。そして、これらのショートショートと呼ぶには長い作品群に共通する点として言える事は。人間・人生とは何か、社会を成り立たせる要素は何か、生きるとは、そして死ぬとは。そういった命題に切り込んだ感がある作品だと言うことです。特に、「処刑」はこのご時世なればこそ一読の価値がありそうな。最後の一文は解釈が分かれるところですが、作者はあえてそうしている感じを受けます。実際、主人公にしてみればどちらでも心情的に大差ないでしょうし。
色々と心安まらぬ事の多い昨今。様々な楽しみが失われ気の滅入る事も多いこの頃。気晴らしに、あるいはちょっと考えるきっかけに、手に取ってみるのも一興ではないかと思います。
by trushbasket
| 2020-03-11 19:59
| NF








