「北極星すらも実は動く」〜真理はあるかも知れないが…〜
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真北を知る上で道標とされる星、北極星。現在は、こぐま座α星がそれに相当する事は、多くの方が御存知かと思います。真北が十二支では子(ね)に相当する事から、我が国では「子の星」と呼ばれました。
更に、この北極星、実は天の北極からは1度近くずれていて、地球の時点に伴って僅かながら夜空を動く。少し詳しい方になると、この辺りも御存知かと。
有名なのは、徳川前期の渋川春海(安井算哲)の逸話ですね。少年時代に竹筒を用いて北極星を観察してこれを突き止め、父親を驚かせた逸話が残されています。
そしてこれ、春海だけでなく、少なからぬ船乗たちも気づいていたらしく、そうした伝承がちらほらあるんだとか。その中で比較的知られているのが、徳蔵とその妻の話です。
徳蔵が漁に出た際、留守を守る妻は子の星に夫の無事を祈るのが常でした。ある時、針仕事をしながら障子に穴を開けて子の星が見えるようにして祈っていると、障子の桟一つ分だけ子の星が動いている事に気付きました。徳蔵が帰ってくると妻はそれを伝え、徳蔵らはその知見を踏まえてより正確な航海が出来る様になったのだそうです。
ふとした気づきをそのまま流さず、きちんとした評価基準と辛抱強い観察で裏取りした妻は勿論の事として。当時の常識に反したであろう知見を、最終的に受け入れて活用した徳蔵も。ともに素晴らしいと思います。
ここで挙げたのは日本人による気づきの逸話ばかりですが、当然ながら色んな時代に世界のあちこちで同様な観測がなされていたものでしょう。ただ、すぐ手元で参照できたのが日本の事例ばかりだったためこうなった次第。
それにしても。不動の道標に思えた北極星も、実は僅かながら動いている。これ、真北に限らず、不動・不変と思われる色々なものにも当てはまるのかも知れません。
あくまで個人的な感懐ですが。人の目に映る「世の真理」とか「正義」とかは、ある意味で北極星に似ているのかも知れない。そう思うことがあります。それは確かに、この世に存在はしているのかも知れない。しかし我々凡俗は、それを掴む事が出来ないのは勿論、そこへたどり着く事も極めて難しい。道標としてさえも、実は盲信すると危うい。「天の北極からの1度のズレ」が、ここぞで脚を掬うかもしれない。それでも、それを頼りにするしかない事もある。そんな思いに捉われる事があります。禅宗で、「悟ったと思っても、それに拘泥したらすでにそれは迷妄だ」という教えがあるらしいのも、その辺りの事を言ってるのかしらん、と思うなど。
そこの辺り、人気娯楽小説『銀河英雄伝説』中盤で主人公の一人ヤン・ウェンリーが言った
あるいは宇宙には唯一無二の心理が存在し、それを解明する連立方程式があるのかもしれませんが、それにとどくほど私の手は長くないのです(田中芳樹『銀河英雄伝説5風雲編』徳間ノベルス 239頁)
という言葉を思い出します。この辺のやりとりでは、少し前の
ひとつの正義に対して、逆の方角に等量等質の正義が必ず存在するのではないか(同書 同頁)
が取り沙汰される気もしますが、これは敬愛すべき敵手たる会見相手へのヤンなりのリップサービスかもなあ、と思ったりもします。ヤンの本音は、寧ろ先ほどご紹介した言葉にこそあるのかも。この人、何だかんだで「正しさ」に対して真摯な気がしますし。
少し脱線したので話を戻しますと。上述したような感懐があるから、己の「正しさ」にまかせて突っ走る真似は、僕はしたくない。そこから外れているかに見える人を裁く真似は、しないよう努めたい。僕個人は、そう考えています。まあ、生きるか死ぬかといった局面だと、そうも言ってられなさそうですが。そして、遺憾ながら最近は、そう捉えざるをえない事態は珍しくなさそう。なので、突っ走ってるかに見える人を責める事はできないけれど。自分もどこまでこの格律を守っていけるか心許なくはあるけれど。能う限り、努力はしていきたいと思います。
箍が外れて「突っ走る」モードになった僕自身の節度とか「真実」への感度とかには、余り信頼が置けない気がするからなあ…。経験的に、心中に渦巻く色んな感情をぶち撒ける事が、僕個人に関しては良い方向に働くとは思えんですし。良くも悪くも、感情の量が周囲の人より多いらしいので。…要は、自分自身のあれこれで手一杯な人間の独り言というか戯言です、今回は。この頃は様々に感情が波立つ事も多く、そしてまた何が正しいのか見えなくなったりで。色々と吐き出したい気分でしたから。御容赦。
【参考文献】
『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』ロゴヴィスタ
岡田芳朗『陰暦と日本人』実業之日本社
児玉幸多『日本の歴史16 元禄時代』中公文庫
駒井仁南子『星座がもっと見たくなる 星座の物語と見つけ方』誠文堂新光社
田中芳樹『銀河英雄伝説5風雲編』徳間ノベルス
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あくまでも、「保身の念に由来する、僕自身の処世術」以上の話ではありませんけどね。そうも言ってられないケースは、無論多々あるでしょう。ただ、とにかく生存率を上げる事を重視するなら、あるいは役に立たなくもないかもです。
「「七夕ぼっち」 in 王朝時代~『拾遺和歌集』の恋歌から~」
これも一応、星の話と言えなくもない。








