大正天皇、漢詩でスイカを讃える
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この頃、夏らしいといいますか、酷暑というべき気候が続いています。新型コロナが相変わらず猛威を振るっているだけに、辛いものがありますね。そこで、今回は夏の風物詩を詠んだ漢詩をご紹介しようかと。
大正天皇が多数の漢詩を残された事は、ご存知の方もおられるかと思います。その中でも、評価が高いらしい詩がこちら。作られたのは即位から間もない大正三年。「大正天皇の詩はこれしかない、という人もいて、巷間かなり話題になっている作」(石川忠久『漢詩人大正天皇 その風雅の心』大修館書店 182頁)なんだそうです。では、鑑賞する事にしましょう。
西瓜
濯得清泉翠有光
剖来紅雪正吹香
甘漿滴々如繁露
一嚼使人神骨涼
西瓜
清泉に濯い得て 翠光有り
剖き来れば 紅雪 正に香を吹く
甘漿滴々 繁露の如し
一嚼 人をして神骨涼しからしむ
(ともに同書 181頁)
〈超意訳〉
スイカ
清らかな泉で洗われて、緑に光るスイカよ。
果実を切り裂いてみると、赤い雪のような果肉が吹き出すように良い香りを放つ。
甘い果汁がポタポタと続け様に落ちる露のようだ。
一噛みすれば、食べた人に心も体も涼しい思いをさせてくれる。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。
●●○○●●◎
●○○●●○◎
○○●●○○●
●●●○○●◎
韻脚は「光、香、涼」の下平声七陽。
以下は、語句解説です。
・濯
水をすすぎ洗う。
・清泉
清く澄んだ泉。
・翠
みどり、青緑。
・剖
刃物で切り裂く。
・漿
とろりとした液状のもの。汁。
・繁露
繁くおく露。湛露とも。なお、『詩経』小雅にある「湛湛露斯 匪陽不晞」の詩句は天子が諸侯と宴を行う様子をうたった詩であり、そこから主君の重恩を指すことも。
・嚼
噛み砕く。咀嚼。
・使
「しむ、せしむ」の使役(「〜させる」)で用いる。
・神骨
「神」は、こころ、たましい。「骨」は、からだ。
文字を追うだけでらスイカの美味しそうな情景が目に浮かぶよう。ちょっとでも、涼しい気分を味わいたく、今回とりあげました。
大正天皇の漢詩人としての側面は、今後もひょっとしたら取り上げさせて頂くかもです。
【参考文献】
石川忠久『漢詩人大正天皇 その風雅の心』大修館書店
『大辞泉』小学館
『精選版 日本国語大辞典』小学館
幸重敬郎『漢文が読めるようになる』ベレ出版
『角川新字源改訂版』角川書店
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
「日本漢字能力検定 漢字ペディア」(https://www.kanjipedia.jp)
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