2020年 09月 05日
大正天皇御製漢詩と南北朝『芳野懐古』〜吉野は日本漢詩の定番〜
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このブログを御覧の方々にはお察しいただけるかと存じますが、僕は南北朝時代が好きです。そして、日本漢詩も好きです。
更に申しますと、南北朝、それも南朝悲史は日本漢詩における伝統的な題材とされてきました。漢詩愛好者として知られる大正天皇もまた、そうした題材を扱った一人でした。
そこで今回は、大正天皇御製漢詩のうち、南北朝詩の定番というべき『芳野懐古』、すなわち吉野山で南朝の昔を偲ぶ、という題材の詩を御紹介しようかと。
ちなみに、これまでご紹介してきた日本漢詩人たちが吉野山・南朝を偲んだ作品に関する記事はこちら。
関連記事:
「「芳野三絶」~南北朝関連の作品を題材に漢詩を見る~」
「「後吉野三絶」を紹介してみる~大正以降?の南朝関連漢詩~」
「「芳野三絶」「後吉野三絶」補足~どちらも、「四天王」でも良いかもしれない~」
そして、大正天皇による吉野をうたう漢詩が以下です。
芳野懐古
芳山秀出白雲中
万樹桜囲古梵宮
往事茫茫遺恨在
延元陵上鳥啼風
(石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店 248頁)
芳野懐古
芳山 秀出す 白雲の中
万樹 桜は囲む 古梵宮
往事茫茫 遺恨在り
延元陵上 鳥 風に啼く
(同書 同ページ)
〈超意訳〉
吉野山は白雲の中で美しい姿を見せている。
たくさんの桜の木々が吉野の古寺を囲むかのよう。
南朝の昔はもはや跡も朧げなほど遠くなったが、後醍醐天皇の無念はなお残っていると見える。
後醍醐天皇陵の上で、鳥が風の中でその想いを告げるかのように鳴いていることよ。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。こちらのサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
○○●●●○◎
●●○○●●◎
●●○○○●●
○○○●●○◎
韻脚は「中、宮、風」の上平声一東。
以下は、語句解説です。
・芳山
吉野山のこと。吉野を「芳野」とも書くため。
・梵宮
仏教寺院。ここでは、南朝の行宮が置かれた吉水院を意味するという。「梵」はブラフマン(バラモン教の最高原理)やサンスクリットを意味し、転じて仏教関連の接頭語となった。
・往事
過ぎ去った昔のこと。ここでは、南朝の歴史を指す。
・茫茫
ぼんやりかすんではっきりしない様子。
・遺恨
忘れ難い恨み、無念。ここでは、政権奪回を果たせず崩御した後醍醐天皇の無念を指す。
・延元陵
後醍醐天皇陵のこと。如意輪寺の堂の後ろに築かれた事から塔尾陵とも称する。延元とは南朝の元号(1336-1340)。この年代に後醍醐天皇が崩御した。
実のところ、大正天皇が吉野山に行啓もしくは行幸した記録は明らかなものはないそうです。それでも、日本漢詩人として定番テーマを詠み、帝王として古の先王や忠臣の事績を偲ぶ。これも自らの「やるべき事」、とお考えになったのかもしれません。
【参考文献】
石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
「日本漢字能力検定 漢字ペディア」(https://www.kanjipedia.jp)
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by trushbasket
| 2020-09-05 14:07
| NF








