2020年 10月 11日
大正天皇御製漢詩と南北朝〜『望金剛山有感於楠正成』その2〜
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今回も、大正天皇御製の南北朝漢詩シリーズです。前回同様、お題は『太平記』の大スター・楠木正成。詩の題もまた、前回同様に「望金剛山有感於楠正成」と相成ります。
望金剛山有感於楠正成
一峯高在白雲中
千歳猶存気象雄
不負行宮半宵夢
長教孫子竭誠忠
一峰高く白雲の中に在り
千歳 猶存す 気象の雄
負かず 行宮 半宵の夢
長く孫子をして誠忠を竭さしむ
(石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店 262頁)
〈超意訳〉
金剛山の頂は高く聳えて白い雲の中。
長い年月がたとうと、雄大な様子は猶も変わらない。
思えば、この山に籠城した楠木正成は、後醍醐天皇が笠置山の行宮である夜に見た夢のお告げに背かぬ活躍を見せた。
自身だけでなく、子孫にまで長きにわたり朝廷に対して誠実に忠義を尽くさせたのだから。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。こちらのサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
●○○●●○◎
○●○○●●◎
●●○○●○●
○○○●●●◎
韻脚は「中、雄、忠」の上平声一東。
以下は、語句解説です。
・一峯
山の峰。ここでは、金剛山。
・気象
きざし、かたち。大自然の様子、気性。近代以降、「天候、大気現象」といった意味が強くなる。
・負
そむく。期待にそぐわない。
・行宮
天子が行幸の際に設けた仮の居所。ここでは、後醍醐天皇が鎌倉に対して挙兵した笠置山をさす。
・半宵夢
半宵とは、夜中。『太平記』によれば、笠置山に籠城した後醍醐天皇は「南の枝が茂った大樹の下に玉座が設けられていた」夢を見た。「木」に「南」と書いて「楠」となるため、楠なる武者を頼れ、というお告げであったという。かくして、楠木正成が召し出される展開となる。
・教
使役。「〜しむ」とよみ、「〜させる」。
・孫子
子孫。平仄の関係でこうした表記になったと思われる。
・竭
尽くす。「尽」と同じ。
実のところ、大正天皇が楠木一族を題材にして詠じられた詩はまだあります。これも、適宜ご紹介したいと存じます。
【参考文献】
石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店
兵藤裕己校注『太平記 (一)』岩波文庫
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
宮下典男『高校とってもやさしい漢文』旺文社
「日本漢字能力検定 漢字ペディア」(https://www.kanjipedia.jp)
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by trushbasket
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| NF








