2020年 10月 25日
大正天皇御製漢詩と南北朝〜『楠正行』 今度は息子さん〜
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ここしばらく続いている、大正天皇御製の南北朝漢詩シリーズ。何回か続いた楠木正成から離れて、今度は息子の正行さんがテーマです。
本ブログに来られる方には御存じの方も多いかと思いますが、一応。正行は、楠木正成の嫡男です。父が湊川の戦いで戦死した後に楠木氏の頭領となり、父同様に南朝のため忠節を尽くし大阪平野でしばしば足利軍を撃破して勇名を馳せます。しかし正平三年(1348)、四條畷の戦いで高師直率いる大軍の前に力尽き討死しました。その忠節や勇戦ぶり、悲劇的最期から父同様に英雄視され、「小楠公」と呼ばれました(「大楠公」が正成)。という訳で、早速詩を見ていきます。
楠正行
勤勞王事節逾堅
表志題扉歌一篇
不負當時遺訓切
千秋忠義姓名傳
王事に勤労して 節逾いよ堅し
表志 扉に題す 歌一篇
負かず 当時遺訓の切なるに
千秋の忠義 姓名伝う
(石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店 273頁)
〈超意訳〉
楠木正行は南朝の帝に懸命にお尽くしし、節義はいよいよ堅固である。
その志を述べた歌一首を如意輪寺の扉に書き残して出陣したのだ。
亡き父・正成から託された遺訓の切なる思いに背く事なく、
遠い年月を経た今にまで忠臣とひての名を残しているのだ。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。こちらのサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
○○○●●○◎
●●○○○●◎
●●○○○●●
○○○●●○◎
韻脚は「堅、篇、伝」の下平声一先。
以下は、語句解説です。
・王事
ここでは、南朝による朝廷の覇権回復のための戦いを意味します。
・表志題扉歌一篇
正行は、四條畷の戦いに赴く際、討死を覚悟して如意輪寺の壁板に「返らじとかねて思へば梓弓なき数に入る名をぞ留むる」(兵藤裕己校注『太平記(四)』岩波文庫 213頁)と辞世の歌を書きつけてから出陣したと『太平記』は伝える。
・負
ここでは、「そむく」とよむ。
・遺訓
遺言として残した教訓。『太平記』によれば、楠木正成は湊川の戦いへ赴く前、討死を覚悟して正行に「自分の死後も朝廷に忠節を尽くすように」と言い残して故郷へ返した。
【参考文献】
石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店
兵藤裕己校注『太平記(三)』岩波文庫
兵藤裕己校注『太平記(四)』岩波文庫
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
「日本漢字能力検定 漢字ペディア」(https://www.kanjipedia.jp)
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