2020年 11月 14日
嵯峨天皇『与海公飲茶送帰山一首』〜空海との友情とお茶〜
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極東文化圏の御多分に洩れず、我が国はお茶との付き合いは長いです。有名なのは鎌倉期に栄西が持ち帰ってからですが、それまでにもなかった訳ではありません。天平元年(729)に聖武天皇が僧侶達に茶を賜った記録もあり、その頃までには大陸から伝わっていたようです。という訳で、平安初期にお茶を扱った漢詩を。
お題は、嵯峨天皇の漢詩『与海公飲茶送帰山一首』。嵯峨天皇は九世紀初頭の天皇で、父・桓武天皇同様に官制改革に尽力。文化人としても詩文や優れ、勅撰漢詩集『凌雲集』『文華秀麗集』にも多くの作品が収載されています。また、空海や橘逸勢と並んで「三筆」と呼ばれる名書家であった事も有名です。三筆同士である空海と茶を酌み交わしながら歓談した事を題材にした一品となります。では、みていきましょう。
与海公飲茶送帰山一首
嵯峨天皇御製
道俗相分経数年
今秋晤語亦良縁
香茶酌罷日云暮
稽首傷離望雲烟
(千宗室『「茶経」と我が国茶道の歴史的意義』淡交社 77頁)
道俗 相別れて 数年を経る。
今秋 晤語するは亦た良縁。
香茶 酌むを罷めて日これ暮る。
稽首 離を傷み 雲烟を望む。
〈超意訳〉
僧の道を進んだ空海と俗人たる自分、人生航路を分かれて数年が経つ。
そんな二人がこの秋、親しく語り合えるのもまた良き縁というものだろう。
香りの良い茶をくんでは止めて話し、としているうちに日は暮れてしまった。
深々と頭を下げて空海との別れを哀しみ、彼が去っていく彼方の雲を眺めていることだ。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。こちらのサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
●●○○○●◎
○○●●●○◎
○○●●●○●
○●○○△○◎
韻脚は「年、縁、烟」の下平声一先。七言絶句なら結句の下二文字は●◎となるべきところですが、○◎となっています。なので、七言絶句ではなく七言古詩と見るべきかと。
以下、語句解説です。
・海公
ここでは、空海(弘法大師)のこと。言うまでもなく真言宗の祖である。
・道俗
仏道に入った僧侶と、俗世間の人。ここでは前者が空海、後者が作者・嵯峨天皇。
・晤語
向き合って打ち解けて話す。「晤」に打ち解ける、という意味がある。
・香茶
香りの高い茶。古代日本における茶は、唐から僧侶が持ち帰った団茶が主流。茶の葉を蒸して搗き丸めて乾燥したものを粉にして、湯に入れて煎じてから塩や甘葛などで味をつけて飲むものであった。しかし遣唐使が行われなくなるとこちらも廃れた。
・云
「これに」といった意味か。
・稽首
頭を地につくまで下げてする礼。うやうやしく礼をする。仏教語由来。
漢籍や仏典にも明るかったであろう嵯峨天皇の面目躍如といった詩だと思います。
この詩は茶を嗜む人々の間では知られているものでしょうか、福寿園京都本店の店内にある灯籠にも刻まれていました。2階の喫茶店からだと、割によく見えますので訪れる機会があった際は探してみるのも一興だと思います。
関連サイト:
「福寿園 京都本店」(http://fukujuen-kyotohonten.com)
【参考文献】
千宗室『「茶経」と我が国茶道の歴史的意義』淡交社
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本人名大辞典』講談社
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
「日本漢字能力検定 漢字ペディア」(https://www.kanjipedia.jp)
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by trushbasket
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