今回、久々に大正天皇御製漢詩を扱います。ネタが苦しくなってきたので。
ところで。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)が冬に入ってますます猛威を振るっていますね。心配な事態です。今年は、医療界がこれまでにない困難や危機に晒された年と言えるでしょう。
それだけに、祈りを込めて医学の進歩に期待し讃える内容の漢詩を今回は鑑賞しようかと思います。では、見ていきます。
醫
珍重醫家術本仁
况逢藥物逐年新
好參天地生生理
億兆盡爲無病人
珍重す 医家 術本と仁
况んや薬物の年を逐うて新たなるに逢うをや
好し 天地生々の理に参し
億兆尽く無病の人と為らん
(石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店 128頁)
〈超意訳〉
素晴らしい事だ、医術の根本が仁徳にあるというのは。
ましてや、薬剤が年を経るごとに新たに進歩しているのだから。
よろしい、ならば天地で生き生きと動く法則にあずかり、
万民すべて病とは無縁の人としたいものだ。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、
こちらをご参照ください。こちらのサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
○△○○●●◎
●○●●●○◎
●△○●○○●
●●●○○●◎
韻脚は「仁、新、人」の上平声十一真。
以下、語句解説です。
・珍重
珍しく大切な事、素晴らしい事。ここでは、後者と思われる。
・医家
医者。または医学を家業とする家。
・仁
他者への思いやりの心。「医は仁術」(人を救うのが医者の道である、という意)と俗に言われるのを踏まえたものか。
・况
いわんや。まして〜なのだから。
・生生
生き生きとして活気がある様子。
・億兆
限りなく大きい数。万民。ここでは後者。
・尽
ことごとく。
本当に、一日も早くこの詩でうたわれた内容を実感できる世になって欲しいものです。
恐らくは、病弱であった大正天皇も医学の有り難みへの実感だけでなく、まだまだ脅威である様々な病を人類が克服する事への祈りも込められてこの詩を詠まれたものと推察します。
【参考文献】
石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
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