2020年 12月 19日
元禄赤穂事件をうたう漢詩〜坂井虎山『泉岳寺』〜
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早いもので、十二月も既に半ばすぎ。十二月における日本漢詩の題材になるような事項といえば、元禄赤穂事件が挙げられます。という訳で、今回はこの事件を題材にした漢詩を取り上げようかと。坂井虎山『泉岳寺』。
まずは、元禄赤穂事件の概略について。元禄十四年(1701)三月十四日、江戸城における勅使接待の場での事です。接待役である赤穂藩主浅野長矩が指南役である吉良義央に斬りつけ、その科で切腹となりました。そして赤穂浅野家は改易となります。浅野が吉良に遺恨を持ったとも言われますが、刃傷沙汰となった理由は不明です。そして翌年十二月十四日、赤穂藩家老であった大石に率いられた赤穂藩旧臣47人が主君の仇討と称して吉良邸に討ち入り、吉良義央を討ち取りました。浪士たちは最終的に切腹となりましたが、忠臣・義士として後世まで称えられました。これが事件のあらましです。
次に、詩の作者である坂井虎山(1798-1850)について。彼は広島藩に仕えた儒者で、父・坂井東派や頼春水の薫陶を受けました。藩学問所や江戸藩邸講学所の教授をつとめ、自らも家塾百千堂をつくり教育に力を注ぎました。
今回ご紹介するのは、虎山が浪士たちの墓所を題材として、彼らの忠義を讃える内容の漢詩となります。では、見ていきましょう。
泉岳寺 坂井虎山
山嶽可崩海可飜
不消四十七臣魂
墳前滿地草苔濕
盡是行人流涕痕
(森槐南・閲、結城蓄堂・編『和漢名詩鈔』東京文會堂 89頁)
山岳崩すべし 海翻へすべし
消せず 四十七士の魂
墳前 満地 草苔湿う
尽く是れ 行人流涕の痕
〈超意訳〉
たとえ山が崩れ海がひっくり返るとしても、
赤穂四十七士の忠魂は不滅である。
彼らの墓前一面に草や苔が湿っているのは、
すべて彼らに感銘を受けた訪れる人々が流した涙の跡なのだ。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。こちらのサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
○●●○●●◎
●○●●●●◎
●○●●●○●
●●●○○●◎
韻脚は「飜、魂、痕」の上平声十三元。
以下は、語句解説。
・泉岳寺
東京都港区高輪にある曹洞宗寺院。万松山。浅野長矩や赤穂浪士たちの墓所がある。
・飜
「翻」と同じ。ひるがえる。
・四十七臣
吉良義央を討つべく討ち入った赤穂浪士たち。討ち入り口上書に名がある四十七人を指す。なお、寺坂吉右衛門は討ち入りの途中から姿を消している。
・行人
道をゆく人、通行人。ここでは、訪れる人。
・流涕
涙を流すこと。
まあ、現代の我々からすれば、素直に共感・賞賛するのが難しい事件ではあります。それでも、義挙として語られた歴史があり、また一時期は年末の定番ジャンルになっていた物語でもあるので、それを題材にした漢詩を今回取り上げてみた次第です。
【参考文献】
森槐南・閲、結城蓄堂・編『和漢名詩鈔』東京文會堂
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本人名大辞典』講談社
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
「日本漢字能力検定 漢字ペディア」(https://www.kanjipedia.jp)
関連記事:
大昔の記事なので、考え方が変わった部分もありますが、参考までに。
徳川綱吉の出番がそこそこ多いのも、「忠臣蔵」ものによるものかと。
by trushbasket
| 2020-12-19 11:46
| NF








