落語『正月丁稚』と正月の風習
|
あけましておめでとうございます。あいも変わらずCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)を始めとする様々な災厄に覆われた世の中ではありますが、今年こそは良い方向に転じる事を祈りたいものです。
さて、「良い年」になる事への祈りを込めて様々に縁起を担ぐ。これは昔から見られる光景であります。古典落語を見ていても、東京の「かつぎや」や上方落語の「けんげしゃ茶屋」「正月丁稚」といった噺はそんな雰囲気を扱っています。なお、縁起を担ぐところに何かと縁起の悪いまぜっ返しが一々入るのはお約束。まぜっ返す側に悪意があるかないかはケースバイケース。
ところで。この中で「正月丁稚」は昔の商家における元日の景色を題材にしており、今では馴染みがなくなった正月儀式もちらほら登場します。という訳で、その中のいくつかに辞書的な解説を加える事で、今年初めての記事とさせていただきます。
・若水
元旦に初めてくむ水。餅や米を水神に捧げたり、縁起の良い言葉を唱えてから汲むのが通例です。『正月丁稚』中では、唱え言をしてから橙を井戸神に捧げていました。東日本では歳男が、西日本の一部では女性が未明に行うものとされているようです。『正月丁稚』では、丁稚をこの役にしていました。この水を歳神に備えたり、下にある大福茶をたてて皆で飲んだりしています。
元来は宮中の儀式で、立春の早朝にあらかじめ封じていた井戸から主水司が水を汲み、女房が天皇の朝餉に奉るものでした。やがてそれが元旦に行われるようになり、民間にも広がったようです。
・大福茶
上記の若水を用いて元旦に点てる茶。山椒や梅干、昆布、黒豆などを茶に入れて邪気を払うものです。村上天皇が茶を飲んで疫病から回復した故事に由来するとされています。
・祝い箸
お節料理を食べる時に用いる、両端が細くなった柳などで出来た白い箸。
両方が細くなっている事については、『正月丁稚』の中では「最初から裕福だった家はない。次第に身上が太くなる。その太くなったところをしっかり掴んで離さないようにするものだ」と説明されています(で、丁稚から縁起でもない茶々を入れられるのはお約束)。
ただ、これについては違う話もあるようです。片方が神、もう片方が人の使う部位として「神と共に食事をし加護を得る」という信仰によるものだとか。
・礼まわり
回礼とも。新年の挨拶をして回る事。『正月丁稚』中では、主人が訪問先の玄関に名刺を置いて回っていました。地域によっては人々が一堂に会して名刺交換するなど様々な形式があったようです。元来は一族の人間が本家に集まり歳を明かして祖霊や歳神を迎えるものだったとも。こうした儀式が年賀状の元になったもののようです。
新年など区切りの時を寿ぐ際に、幸福の到来を祈って縁起を担ぐ。その心情が、切実に理解できる気がする年明けです。今年こそ、今年こそは。良い世の中になりますように。
【参考文献】
笑福亭松鶴『上方落語100選(2)』グーテンベルク21
興津要『古典落語(上)』講談社
小佐田定雄『上方落語のネタ帳 1分でわかる噺のあらすじ笑事典』PHP研究所
『大辞泉』小学館
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本大百科全書』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』ロゴヴィスタ
『食器・調理器具がわかる辞典』講談社
島田洋子『日本人必携 留学生にも役立つ 日本の文化と礼儀』三恵社
関連記事:
「<言葉>松無古今色、竹有上下節~変わるもの、変わらないもの~」
昨年の元日記事。この時は、僕も呑気に構えてましたねえ、今思えば。
こちらは旧暦十月一日「茶人正月」の話。
関連動画:
「笑福亭松鶴(六代目) 正月丁稚」
「桂米朝(三台目) 正月丁稚」








