大正天皇御製漢詩『櫻花』〜桜の時期は終わりつつありますが〜
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早いもので、もう四月も10日過ぎて桜も散りつつあります。桜が忘れ去られないうちに、桜を題材にした大正天皇御製漢詩を今回は話題にしようかと。
櫻花
瓊葩燦燦映春陽
暖雪流霞引興長
爛發東風千萬樹
此花眞是百花王
瓊葩 燦々 春陽に映ず
暖雪流霞 興を引くこと長し
東風に爛発す 千万樹
此の花 真に是れ百花の王
(石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店 3頁)
〈超意訳〉
玉の如く紅く美しい花が春の日に照り映えている。
暖かな雪とも流れる霞とも見えて興が長く尽きない。
東風に吹かれ乱れ咲く多くの桜の木々よ。
その花はまさしく花の中の王者である。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
○○●●●○◎
●●○○●●◎
●●○○○●●
●○○●●○◎
韻脚は「陽、長、王」の下平声七陽。
以下、語句解説です。
・瓊葩
「瓊」は、赤く美しい玉。「葩」は花、花びら。
・燦燦
太陽が明るく輝く様子。彩が鮮やかな様子。
・暖雪
ここでは、舞い散る桜の花びらを降雪に見立てている。
・流霞
たなびき動くもや。ここでは、桜吹雪をこう例えている。
・爛發
鮮やかに現れるさま。「爛」は鮮やかな事、「発」は開花するというニュアンスか。
重野成斎『霞岡臨幸記』に「桜花爛発」とあるのをモチーフにした可能性が指摘される。
・東風
東からふく風、春の風。「こち」とも読む。氷を溶かし春を告げる風として、古来より雅語として用いられた。
・百花王
花の中の王。中国では牡丹をこう称するという。ただしこの詩では、桜を指している。
もはや桜の時期は過ぎつつあるとは言え、やはり日本の春の代名詞。という訳で、初夏になる前にと、今回は話題にさせていただきました。
【参考文献】
石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本大百科全書』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
「日本漢字能力検定 漢字ペディア」(https://www.kanjipedia.jp)