田道間守の話〜主君のため不老長寿の薬を手に入れるも悲命に泣いた、後世に「お菓子の神様」となった男〜
|
桜の季節も終わり、次は花橘の時期といったところでしょうか。橘が花を咲かせるのは5月から6月ごろとされており、まさに初夏を代表する花といえそう。この橘、花を愛でるだけでなく、古来から一顆千歳の齢をのばす不老長寿の仙薬とされてきたようで。『神仙伝』でも疫病が流行した際に橘の葉と井戸水で治療した、なんて話がありましたな。ちなみにこの逸話から転じて医者の事を「橘井」という呼び方をする事もあったそうで。
さて。日本古代で不老長寿の薬といえば、『竹取物語』末尾が比較的知られているかと思います。現在連載中の人気少年漫画の中にも、その伝説をモチーフにした作品があるようですね。
しかし、今回は別の話。「日本古代」で「不老長寿の薬」を手にした人物の話が、もう一つあります。今回の主題は、こちら。冒頭で触れた、橘と絡むお話です。この話の主人公は、田道間守という人物。
田道間守は、古代の伝説上の人物です。新羅の王子・天槍彦の末裔とされ、但馬国守だとか。『古事記』『日本書紀』には、以下のような話が伝えられています。田道間守は第十一代垂仁天皇から「非時香菓」(ときじくのかくのみ、時期ではないのに香り高い果物)を持ち帰るよう命じられ、常世国へと赴きます。常世国は、海の彼方にある永遠不変の国の事です。彼は十年の歳月を経て、該当する果物を手に入れ「八竿八縵」(八は、数多くといった意味かと。竿は串刺し、縵は糸で繋いだもの)にして持ち帰りました。
しかしながら、故郷で知ったのは帰国前年に垂仁天皇が崩御していたという悲報。「非時香菓」には不老長寿の効能があるとされていましたが、田道間守は主君にこれを届ける事はできなかったのです。悲嘆やる方ない田道間守は亡き垂仁天皇の御陵に果実を捧げ、その場で哭き叫び息絶えたとされています。一説には自ら命を絶ったとも。
その垂仁天皇陵に比定される古墳は、奈良市南部に位置にします。そして御陵を取り囲む水濠の中に佇む、一つの小さな塚。これが、田道間守の墓である。今日まで、そう語り継がれています。Googleマップで調べていただければお分かりかと思いますが、近鉄橿原線の車窓から見える位置にありますよ。ただし、慶応三年の山陵地図にはこの塚は描かれていないそうで、明治期以降の成立ではないか、という話もあったりはするようです。
閑話休題。こうした悲話を残す田道間守ですが、後世からは神として崇められるようになりました。といいますのは、彼が持ち帰った「非時香菓」とは、おそらく橘であろうとされています。現代でいう橙とも蜜柑とも言われますが、詳細は存じません。そして、昔は果物を「菓子」と称したのです。今日でも「水菓子」という言い方がありますね。
そうした事情もあってか、田道間守はいつしか菓子の神として崇敬されるようになったのです。一例を挙げるなら、兵庫県豊岡市の中嶋神社は、この田道間守を祭神とし全国の製菓業者が集う菓子祭が行われるとか。また京都市の吉田神社境内にある菓祖神社も、田道間守と饅頭を我が国で初めて作った林浄因を並べて祀っているそうです。
関連サイト:
「とよおかスイーツギャラリー」(https://toyooka-cci.jp)より
「菓祖 田道間守ものがたり」(https://toyooka-cci.jp/tajimamori/)
「京都府菓子卸商業組合」(http://kyotokashioroshi.jp/index.html)より
「お菓子の神社 菓祖神社」(http://kyotokashioroshi.jp/okashi02.html)
【参考文献】
『日本大百科全書』小学館
『八代市史』八代市教育委員会
阪倉篤義校訂『竹取物語』岩波文庫
『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』ロゴヴィスタ
『大辞泉』小学館
『日本人名大辞典』講談社
『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞出版
『世界大百科事典』平凡社
今尾文昭『律令制陵墓の成立と都城』青木書店
吉田さらさ『お悩み別 この神さまに相談しよう』飛鳥新社
若村亮『知れば行きたくなる! 京都の「隠れ名所」』実業之日本社
関連サイト:
「日本の南北朝と、三国志の間の意外な共通点~饅頭の起源?~」
「お菓子の神様」繋がりで。
「南北朝歴史人物の漢詩を鑑賞する~細川頼之『海南行』と絶海中津『応制賦三山』~」
君王の命を受けて不老長寿の薬を取りにいった人物としては、秦の始皇帝に命じられて旅立った徐福が有名ですね。徐福を題材にした漢詩が出てくる記事です。
関連サイト:
「奈良に住んでみました」(http://small-life.com)より
「田道間守の陪冢も!第11代『垂仁天皇陵』@奈良市」(http://small-life.com/archives/17/07/0220.php)
田道間守墓の拝所もあるそうです。
「うたごえサークルおけら」(http://bunbun.boo.jp)より
「田道間守」(http://bunbun.boo.jp/okera/w_shouka/s_kokumin/s1_tajima_mori.htm)








