今度は「桂男」の話〜また初夏の花と「不老不死」、そして『麒麟がくる』〜
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先週は花橘と絡めて田道間守のお話をいたしましたが、初夏の花といえば「桂」も該当しますね。桂は山地に生える落葉高木で、5月ごろに紅色の雄花、淡紅色の雌花をつけるそうです。
なお、中国では月の暗い影の部分に「桂」の木が生えているという伝説があるそうですが、これは日本の「桂」とは異なり肉桂もしくは木犀だとされているようです。そして月に生える「桂」絡みで、やはり不老不死関係の伝説がある様子。先週ちらっと話に出した『竹取物語』とは、「月」「不老不死」「罪人」といったキーワードが共通してなくもない、そんな話です。すなわち、「桂男」の伝説。先の大河ドラマ『麒麟がくる』終盤で話題に出ていましたから、ご存知の方も多いかと。
関連サイト:
「Real Sound」(https://realsound.jp/movie)より
「『麒麟がくる』変わり果てた織田信長の心 明智光秀に残された唯一の道しるべ」(https://realsound.jp/movie/2021/01/post-692412.html)
ドラマ中では、「月に咲く不老不死の花を独占しようとした男が、神の怒りに触れて月に閉じ込められた」という内容で語られました。それを踏まえ、現世の有力者たちは同様に「月へかけあがろう」とするかのように生きている、と時の帝・正親町天皇は慨嘆。月へ登ろうとするかのような生き様の末に癒せぬ孤独に陥った主君をどう救済するのか、もはや自分の言葉も届かなくなった主君に対し自分は何ができるのか。主人公のそうした苦悩が募っていく中で、物語は終局へ向かっていきました。
それはさておき。もう少しこの「桂男」について辞書的な説明を加えておきます。唐の段成式が記したという『酉陽雑俎』巻一天咫には、こんな話があるとか。
舊言月中有桂有蟾蜍故異書言桂高五百丈下有一人常斫之樹創随合人姓呉中剛西何人學仙有過謫令伐樹
(『唐段成式酉陽雑俎 乾』弘治五年跋より)
概略を大雑把に訳すと、こうです。かつて仙術を学んだ呉剛という人物が罪を犯しました。罰として月にある高さ五百丈の桂を斧で切り倒す事となったのですが、切っても切っても桂はすぐ元に戻ってしまいます。なので、呉剛はいつまでもいつまでも木に斧で切りつけている。そんな内容の話です。
この呉剛を指して「桂男」と呼んでいるという事です。そして、月そのものも「桂男」と称される事があるとか。
なお、この伝説から転じてか、「桂男」という言葉には「美男」という意味が後世には生じたようです。そういえば『伊勢物語』第七十三段で見えるのに手に取れない人への切ない思いを「月の桂」に擬えた歌を主人公が詠む話がありました。すなわち
目には見て手にはとられぬ月のうちの桂のごとき君にぞありける(大津有一校注『伊勢物語』岩波文庫 51頁)
というもの。『伊勢物語』主人公とされる在原業平も絶世の美男子とされる人ですが、これも「桂男美男子」伝説と関係あるのか、ないのか。それは存じません。まあ、この歌は実際には湯原王という人の歌らしいですが。それはともかく、「月」「不老不死」「罪人」なおかつ「美形」というのは『竹取物語』に登場する姫をも連想させる話だなあ、と詮ないことを思ったりは致します。
しかしこの「桂男」伝説、不老不死にまつわる永遠の孤独や悲哀を連想させるあたり、現代創作作品好みの話かもなあ、ともふと思ったりも致します。
あとは、余談。『麒麟がくる』作中で主人公・明智十兵衛光秀が妻と口ずさんでいた「桂男」の歌。これは『梁塵秘抄』に収載されている今様です。
月は船星は白波雲は海、如何に漕ぐらん桂男は唯一人して。
(佐佐木信綱校訂『新訂 梁塵秘抄』岩波文庫 78頁)
〈超意訳〉
月は船のようで、空に散りばめられた星は白波、そして雲は海のよう。この「海」を「船」はどうやって漕いでいこうというのだろうか。漕ぎ手たる桂男は、ただ一人だけなのに。
坂本城から琵琶湖を見下ろしながら美男美女が微笑みながら互いに口ずさむ実に絵になるシーンだったと記憶します。そのせいもあってか、この歌における「桂男」には、罪人の悲哀というより何となくロマンチックな雰囲気が漂うような気がいたします。
【参考文献】
『大辞泉』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本大百科全書』小学館
『唐段成式酉陽雑俎 乾』弘治五年跋
(国会図書館デジタルコレクションにて参照)
大津有一校注『伊勢物語』岩波文庫
阪倉篤義校訂『竹取物語』岩波文庫
佐佐木信綱校訂『新訂 梁塵秘抄』岩波文庫
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