2021年 09月 18日
伝・上杉謙信『九月十三夜』〜秋の日本漢詩〜
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九月もはや、半ばすぎ。今回は、九月半ば(旧暦なので厳密には今よりもう少し先ですが)を題材にした有名な日本漢詩を取り上げようかと思います。詩の題は『九月十三夜』、作者はなんと上杉謙信(※)。そういえばライバルとされる武田信玄もいくつか漢詩作品を残しています。教養においても好敵手、というところでしょうか。
※まあ厳密には異説もあるようですが、積極的に謙信の作品である事を否定する材料も特にないようです。
本作は、天正五年(1577)、織田陣営の能登七尾城を攻めていた謙信が勝利を目前にしつつ陣中で名月を賞して作った詩とされています。それでは、見ていきましょう。
九月十三夜
霜滿軍營秋氣淸
數行過雁月三更
越山幷得能州景
遮莫家鄕憶遠征
(『新釈漢文大系 日本漢詩 上』明治書院 111頁)
霜は軍營に滿ちて 秋氣淸し
數行の過雁 月三更
越山 幷せ得たり 能州の景
遮莫 家鄕の遠征を憶ふは
(同書 109頁)
〈超意訳〉
霜が白くわが陣営に満ち満ちて、秋の気配は清々しい。
いくつかの列をなして雁が空を横切り、月は夜半の天に美しく輝く。
越後・越中に加えて、能登を平定してこの景色も新たに手に入れる事が出来た。
故郷では皆が遠征中の我等を心配しているだろうが、まあ構いはしない。今はそれも忘れてこの喜びに身を委ねよう。
実際には文献によって文字の異同があるいくつかのパターンが伝えられているのだほうです。今回はよく知られた頼山陽『日本外史』に記録されたバージョンに準拠しています。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
○●○○○●◎
●○△●●○◎
●○●●○○●
○●○○●●◎
韻脚は「清、更、征」で下平声八庚。
以下は、語句解説です。
・霜満
霜がいっぱいに落ちる。霜は秋の末から冬のイメージ。
・軍営
軍隊の駐屯する場所。転じて、将軍を指すことも。
・秋気
秋らしい感じ、秋の気候。
・雁
カモ目カモ科のうちハクチョウ類を除く総称。日本にはマガンが冬鳥として北から渡来する。列をなして飛び、その様子を「雁行」と呼ぶ。
・三更
夜を五等分した三つ目。子の刻。季節によって差はあるが、概ね午後十一時もしくは午前零時からの二時間をさす。九月十三日は満月近く、この時刻でも美しく見えていたと想像される。
・越山
直後に「幷得」とあるのも考えると、上杉
謙信の本国である越後(新潟県)、そして支配下にある越中(富山県)を指すか。
・幷
幷は「並」同様、「ならびに」。相共に。
・能州
ここでは能登(石川県北部)。
・遮莫
「さもあらばあれ」と読む。それならそれで仕方ない、どうともなるがよい、などのニュアンス。「任他」なども同様。
・家郷
ふるさと、故郷。
戦陣で名月を賞しつつ宴で詩を賦す。その姿は、確かに「軍神」「上杉謙信」のイメージを象徴するような光景です。だからこそ、今日まで語り継がれてきたのでしょうね。
【参考文献】
『新釈漢文大系 日本漢詩 上』明治書院
加藤徹『漢文の素養』光文社新書
『日本大百科全書』小学館
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『大辞泉』小学館
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
「日本漢字能力検定 漢字ペディア」(https://www.kanjipedia.jp)
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少なくとも「勇猛剽悍」さ、戦術指揮官としてのレベルにおいてはこういう評価になった、という話のようですね。
by trushbasket
| 2021-09-18 15:53
| NF








