大正天皇御製漢詩『歳晩書懐』〜来年こそ、良い年になりますように〜
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クリスマスも過ぎ、いよいよ年末。と言う訳で、年の瀬を題材にした大正天皇御製漢詩を今回は取り上げます。即位間もない大正二年の作。
歲晚書懷
歲晚天晴月似鐮
北風吹起動畫簾
此時獨坐中心痛
傳聞水旱苦蒼黔
牧民今日要救助
夜深燈前感更添
歳晩 天晴れて 月 鎌に似たり
北風 吹き起こして 画簾を動かす
此の時 独り坐して 中心痛む
伝聞す 水旱 蒼黔を苦しましむと
牧民 今日 救助を要す
夜深けて燈前 感更に添う
(石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店 160頁)
〈超意訳〉
年の瀬に思いを書き付ける
年末、空は晴れ渡って鎌のような月が出ている。
北風が吹き、絵の描かれた簾を揺り動かす。
こんな時、一人座って心が痛むのは、
洪水や旱魃の被害で民が苦しんでいると聞いている事だ。
知事たちは今こそ民を救う必要がある。
夜が更ける中、灯火の前でそうした感慨が次々に湧いてくるのだ。
形式は七言古詩。四句からなる絶句とも、八句からなる律詩とも異なります。平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
●●○○●●◎
●○○●●●◎
●○●●○○●
○○●●●○◎
●○○●△●●
●○○○●●◎
韻脚は「鎌、簾、黔、添」の下平声十四塩。
以下、語句解説です。
・歳晩
一年の終わり頃。歳末。
・水旱
洪水と旱魃。それらによる被害。
・蒼黔
蒼生と黔首。ともに庶民、人民を指す。「蒼生」は人が増えるのを草が生い茂るのになぞらえたものであろうか(我が国にも同様な意味の「青人草」という用法がある)。「黔」は黒で、昔は冠をつけず黒髪を出していたのが庶民のしるしであった事から「黔首」の語が生まれたという。
・牧民
人民をおさめる事。また、その役目をする役人。地方長官。
思えば、今年もCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)を始めとして水害など様々な災が世界中で相次いだ年でした。こうした年の終わりに振り返るには、ちょうど良い詩かも知れません。
【参考文献】
石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本大百科全書』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
「日本漢字能力検定 漢字ペディア」(https://www.kanjipedia.jp)
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