大正天皇御製漢詩『新春偶成』〜初期作品のようです〜
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あけましておめでとうございます。これまでに引き続いて多事多難な中ではありますが、今年こそ良い年になりますようお祈り申し上げます。
さて、新年という事でそれに相応しい漢詩を、例によって大正天皇御製漢詩の中からご紹介して年頭の歴史記事に替えさせていただこうかと存じます。
皇太子時代の明治二十九年の作。漢詩を作り始められたのはこの年からのようですから、最初期の作品という事になります。
新春偶成
東風梅馥郁
天地十分春
喜見昌平象
謳歌鼓腹民
東風に梅馥郁たり
天地 十分の春
喜び見る 昌平の象
謳歌す 鼓腹の民
(石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店 2頁)
〈超意訳〉
東からの風で梅の香りが漂い、
天地には春の気配が溢れる。
喜んで天下泰平の様を見て、
繁栄を楽しむ民の様を称える。
形式は五言絶句。平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
○○○●●
○●●○◎
●●○○●
○○●●◎
韻脚は「春、民」の上平声十一真。
以下、語句解説です。
・東風
春に吹く、東寄りの風。氷を解き春を告げる風とされる。
・馥郁
良い香りが漂っている様子。
・昌平
国運が盛んで世の中が平和な事。
・象
かたち
・謳歌
声を合わせて一斉に歌う事。転じて、声を揃えて褒め称える事、良い境遇にある事を喜び合う事。
・鼓腹
腹鼓をうつこと。転じて、泰平を楽しむ事。鼓腹撃壌。聖天子・堯の治世に老人が腹鼓を打ち地面を叩いて太平への満足を歌った故事に由来する。
この詩、実はこの年の正月に実際にお作りになったものではないようです。大正天皇(当時は皇太子)が漢詩を嗜まれるようになったのは、この年の三月に三島中洲から手解きをお受けになってからのこと。それ以降に「新春偶成」の題が出された際、それに従って作られたものと推定されています。国の繁栄、父帝の帝徳を寿ぐ格調高いめでたい詩と言うべきかと。天皇の和歌と同様、実情を詠んだというより「かくあれかし」という願い・祈りが込められたものと解するべきなのかもしれません。
【参考文献】
石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本大百科全書』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
「日本漢字能力検定 漢字ペディア」(https://www.kanjipedia.jp)
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