今は馴染みない二月の年中行事「初午」〜春を迎え豊作を祈る〜
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少し前、今は馴染みが薄くなった一月の年中行事として「子の日」についてお話をいたしました。二月半ばを迎えつつある今回は、同様にかつてほど知られなくなった二月の年中行事「初午」のお話をいたそうかと。
初午は、二月最初の午の日を意味し、稲荷の祭日とされています。遅くとも平安期には稲荷神とこの日が結び付けられていたらしく、『今昔物語集』や『紀貫之集』には初午の稲荷詣に関する記述があるとか。
稲荷は「稲生」すなわち食物や桑葉を司る神とされ、神像も稲を背負う農民の姿で描かれる通り農業神。狐と稲荷信仰が結びついたのも、狐を田の神とする俗信からだと言います。
そして、初午の習俗は稲荷信仰との結びつきとは限らないようです。信州のように養蚕の盛んな地域では蚕玉祭と称してカイコの神を祀る事もあるそうで。また道陸神の火事見舞いと称して餅を供える地域も。そして豊作を祈り屋敷神に小豆飯と鰊を供える新潟県南魚沼市六日町地区、世上祭と称し豊作を祈る壱岐といった事例も。総じてこの日は、豊作を祈る祭りと言えそう。
それにしても、豊年を祈るのがなぜ「馬」の日なのか。南方熊楠『十二支考』には、こんな話がありました。ヨーロッパでは馬を穀物の精とみなす民間信仰があり、それは農耕に馬が欠かせぬ存在だった事によるとか。そしてインドにも類似した信仰があり、我が国でも前近代に初午で観音を拝む風習を持つ地域があったのも、馬が馬頭観音の眷属とされたためだろうといいます。農事開始の時期を迎え豊年を祈るための祭りが、馬への信仰と結びついたものでしょうか。そして我が国の場合、同様な理由で稲荷信仰とつながったのでしょうな。
さて、この日は飛驒の高山市のように茶を飲まない習わしがある地域がある一方、茶の湯の世界で趣向がなされる日でもあるようです。「初午茶碗」といって高台が細く高く、玉の模様の彫がある茶碗を用いるのが通例で、他にも稲荷や馬に因んだ道具立てが好まれます。例えば狐の香合、三ツ鳥居の蓋置、馬地紋の釜、馬の絵など。伏見稲荷に因んで柚子でんぼ(柚子の形のつぼ)など伏見人形も好んで用いられるようです。
【参考文献】
『日本大百科全書』小学館
『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』ロゴヴィスタ
「青空文庫」(https://www.aozora.gr.jp)より
「南方熊楠 十二支考 馬に関する民俗と伝説」(https://www.aozora.gr.jp/cards/000093/files/2537_21654.html)
三味著『茶道歳事記』晃文社
千宗左『表千家茶道十二か月』日本放送出版協会
堀井令以知『京都語を学ぶ人のために』世界思想社
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