2022年 08月 14日
歌枕「末の松山」、恋歌以外の用例〜「人事であり得ぬ事が」?
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以前にとりあげた歌枕「末の松山」。どこのどんな場所で、どんな状況で歌に用いられるかは前回とりあげました。しかし、前回取り上げたような「変わらぬ恋仲」とは異なる意味合いが込められた事例も見つけましたので今回はご報告をば。
今回も、出典は『続後撰和歌集』巻第十七 雑歌中と相成ります。
つかさめしの比思ふことおほくて同心に歎ける人の許につかはしける
按察使朝光 于時左大将
松山の こなたかなたに 浪こえて
しぼるばかりも ぬるる袖哉
〈超意訳〉
司召の除目のころ、悩む事が多くて同様な嘆きをしている人のもとに送った歌
波が決して越えぬ筈の末の松山のあちらこちらに波が越えるようなあり得ぬ事が人事でおきてしまって。波を被ったかのように、我が衣の袖は絞れるほど涙で濡れてしまった。
返し 左近大将済時 于時右大将
思はじと おもふ物から まつ山の
すゑこす波に 袖はぬれつつ
〈超意訳〉
返歌
除目の結果は気にすまいと思っているのに…。それでも、末の松山を波が越えたかのようなあり得ぬ内容に、私も衣の袖が涙で濡れています。
・つかさめし
司召。在郷諸官庁の官吏を任命する事、その儀式(司召の除目)。元来は春に行われたが、平安中期からは秋に行うようになった。地方官を任命する儀式は「県召(あがためし)の除目」と言い、春に行われる。
・ものから
〜だけれども
人事異動の公表で、期待した地位が得られなった人々が、「馬鹿な、ありえん!」という嘆きをこめて「末の松山」を歌に詠み込んだ、そういう事例と言えそうです。
【参考文献】
『日本大百科全書』小学館
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『大辞泉』小学館
『百科事典マイペディア』平凡社
『続後撰和歌集 下』吉田四郎右衛門尉刊行
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by trushbasket
| 2022-08-14 19:42
| NF








