歌枕「名取川」〜「名を上げる、取られる」の言葉遊び〜
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しばらく恒例になってる歌枕シリーズ、今回は「名取川」です。
名取川は、宮城県中部を東に流れる、奥羽山脈二口峠あたりを源流として名取市閖上で太平洋に注ぐ全長55kmの川です。
『枕草子』にも取り上げられ、『古今和歌集』恋三で壬生忠岑が
みちのくに ありといふなる なとり川
なき名とりては 苦しかりけり
〈超意訳〉
陸奥には名取川なる川があると聞くが、身に覚えのない噂で名が上がるのは苦しいものだよ。
とあるように和歌にも取り上げられてきました。
『続後撰和歌集』巻第十七 雑歌中にも
従三位顕氏
年ふれど かはりもやらぬ 名取河
うき身ぞ今は せせの埋木
〈超意訳〉
年月を経ても変わりもない名取川に、思うに任せぬ我が身は今、せせらぎの埋木のように名を上げる事もなく沈んでいることだ。
寄川述懐 藤原伊長朝臣
うきつ世に しづみはてたる 名取河
又埋木の 数やそふらん
〈超意訳〉
憂い多きこの世に、我が身も名もなきままに沈みきっている。名取川には、こうして埋木の数がまた増えるのだろう。
「名取」には名を上げる、名を知られるという意味があります。だから「名取川」も「名を上げる」もしくは「知られることもなく」といったニュアンスで和歌に用いられたようです。
狂言演目にも『名取川』がありますが、これも「名前」絡みの内容。名前をつけてもらったばかりの僧侶二人が名取川を渡ろうとして転び、法衣に書いた名前が水で消えてしまって思い出せず…という内容の喜劇だそうで。和歌とは逆に「名を取られる」という意味ですが、川の名前での言葉遊びなのは共通しています。
景勝というよりも、川の名称が持つインパクトによって、和歌などに用いられたという事でしょうかね。
【参考文献】
『日本大百科全書』小学館
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『大辞泉』小学館
『百科事典マイペディア』平凡社
『続後撰和歌集 下』吉田四郎右衛門尉刊行
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