先週に続いて、今回も大正天皇御製漢詩を。今回も秋の漢詩『初秋偶成』。大正五年(1916)の御製です。
初秋偶成
天淸露下早蟲吟
月照階前涼氣侵
燈火可親好披卷
文章欲見古人心
天清く露下って 早虫吟ず
月は階前を照らして 涼気侵す
燈火親しむべし 好し巻を披かん
文章見んと欲す 古人の心
(石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店 269頁)
〈超意訳〉
空は清らかに澄み渡り、露が降りて初秋の虫が鳴き始めている。
月は階段を照らし、大気にも涼しさの気配が忍び寄ってきた。
灯火に馴染んで、書物を広げよう。
文章を読むことで、昔の人の思いに触れようと思うのだ。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、
こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
○○●●●○◎
●●○○○●◎
○●●○△○△
○○●●●○◎
韻脚は「吟、侵、心」の下平声十二侵。
以下、語句解説です。
・早虫
初秋に鳴く虫
・涼気
涼しい気配
・燈火可親
韓愈『符読書城南』に「燈火稍可親 簡編可巻舒」という一説があるという。「簡編」は書物。「巻舒」は巻くことと広げる事、広げる事と仕舞う事。ここから「燈火可親」で「書物を広げる」事への連想がなしうる。
・披
開くこと
・巻
書画などの巻物。書物を数えるのにも用いる。
【参考文献】
石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本大百科全書』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『中日辞典 第三版』小学館
『大辞林』三省堂
『普及版 字通』平凡社
『動植物名よみかた辞典 普及版』日外アソシエーツ
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
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