2022年 12月 19日
歌枕「安積沼」〜「花かつみ」がセット、恋歌で頻出?〜
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『続古今和歌集』を読んでいると、また歌枕にぶつかったので。今回のお題は「安積沼」、「浅香沼」とも書くようです。巻第十一、恋歌一から。
今上御歌
契りをば あさかの沼と 思へばや
かつみながらに 袖のぬるらん
〈超意訳〉
貴方との愛の契りは、浅いものでしかなかっただろうか、いやそうではあるまい。安積の沼に咲く花かつみではないが、ふと目をやるだけで涙で袖が濡れてしまうだろうから。
「今上」とは編纂された時期から亀山天皇でしょうか。
前中納言定家
うしつらし あさかの沼の 草の名よ
かりにもふかき えにはむすばで
〈超意訳〉
憂に満ちて辛く思われる、安積の沼に生える花かつみという草の名のような貴方よ。浅く終わり、深い縁を仮にも結ぶ事はできなかった。
安積沼は、福島県郡山市、安積山の麓にあったとされる沼です。安積山は、古代に葛城王なる貴人をもてなした際に不手際があり機嫌を損ねたけれど、采女の機転ある振る舞いと歌で事なきを得た、という伝説がある土地だそうで。もっとも、「安積山」の方も日和田にある丘とも、額取山がそうだとも言われているそうで、山麓の沼の特定も容易ではなさそうな気配。長い年月の経過と共に、地形や地名も変わっていくものですねえ。
その他、『古今和歌集』恋四に
みちのくの あさかのぬまの 花かつみ
かつみる人に 恋ひやわたらん
〈超意訳〉
陸奥にある安積沼の花かつみのように「かつみる」、すなわちちらっと見ただけの貴方を恋慕い続けるのだろうか。
とあり『新古今和歌集』にも
野辺はいまだ あさかの沼に かる草の
かつみるままに 茂る頃かな
〈超意訳〉
野辺はまだ草の色も浅いけれど、安積の沼で刈る花かつみは、少し見ているうちに茂っていく時期でしょうな。
という歌も。どうやら今上御歌にも出てきた「かつみ」は安積沼と深い縁がありそう。『小町草子』にも「あさかのぬまのかつみぐさ、かつみしより」なんてありますし。「かつ見る」なんて形で縁語にするケースも。この「かつみ」は調べた範囲では、真菰の古名だとも菖蒲とも酢漿とも言われ諸説あるようです。ついでに、「かつ見る」の「かつ」とは「ほんの少し」という意味あいの様子。そして、恋やらに絡めて「あさ」に引っ掛けて「浅い」という言葉を連想させる用例も目立ちますな。
歌枕というのも、少し深堀りするといろんな話題が出てくるものです。セットになる言葉とか、言葉遊びで思わぬテーマに使われたりとか。
【参考文献】
『続古今和歌集 中』吉田四郎右衛門尉刊行
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本大百科全書』小学館
『大辞泉』小学館
『動植物名よみかた辞典 普及版』日外アソシエーツ
『岩磐史料叢書 下巻』岩磐史料刊行会
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