2023年 05月 07日
歌枕「三室山」〜決まり文句は紅葉と時雨〜
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秋や初冬の歌でしばしば登場する歌枕に「三室山」というのがあります。
『小倉百人一首』の六十九番目にも
能因法師
嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は
立田の川の 錦なりけり
〈超意訳〉
嵐が吹きつけて散った三室山の紅葉の葉は、
さながら立田の川を彩る錦のようだ
という歌が登場する歌枕としてはメジャーな部類の存在。今回はこの三室山について。
三室山は「御室山」とも書き、奈良県生駒郡斑鳩町にある神奈備山の別称です。山麓に龍田川が流れ、紅葉・時雨の名所として知られました。なので「龍田」「神奈備」という地名や「紅葉」または「時雨」というキーワードと共に詠まれる傾向があります。上で挙げた能因法師の歌もそうでしたね。因みに「時雨」(しぐれ)は晩秋から初冬にかけての降ったり止んだりする雨をいいます。
他に例を挙げると『古今和歌集』秋下にある詠み人知らずの歌は
たつた川 もみぢばながる 神なびの
みむろの山に 時雨ふるらし
〈超意訳〉
龍田川に紅葉の葉が流れている。どうやら、神のおわす三室山に時雨が降っているらしい。
といった具合。因みに三室山の別名にもなっている「神奈備」とは「神がいらっしゃる場所」という意味で、神体である山がこう呼ばれます。
『続拾遺和歌集』巻第八 雑秋歌にも
宝治百首歌奉ける時初冬時雨といふことを 従三位為継
冬のくる あらしをさむみ 神なびの
み宝の山や まづしぐるらん
〈超意訳〉
冬が来る。嵐が寒いので、神のおわす三室山が真っ先に時雨れるのであろう。
題しらず 藤原重名朝臣
かねてだに 木葉しぐれし 神なびの
三室の山に 冬は来にけり
〈超意訳〉
そうでなくとも前々から 木の葉に時雨が降っている、神がおられるという三室山に冬がいよいよやって来た事だ。
なんてのもあります。こちらは神奈備、時雨が読み込まれてますね。
なお、同じ奈良県にある桜井市の三輪山も三室山と呼ばれ『万葉集』で歌われたりしています。区別するには、上で述べた「龍田」「神奈備」「紅葉」「時雨」というキーワードがどうやら役に立ちそうです。
【参考文献】
『続拾遺和歌集 上』吉田四郎右衛門尉刊行
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『小倉百人一首』日吉堂
谷山繁・猪野謙二・村井康彦・本多伊平共著『第六版 新訂国語総覧』京都書房
『大辞泉』小学館
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by trushbasket
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