2023年 09月 13日
冬の風物詩「千鳥」~思いっきり季節はずれなのは御容赦~
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近江(あふみ)の海(み) 夕波千鳥 汝(な)が鳴けば
心もしのに 古(いにしへ)思ほゆ
〈超意訳〉
近江国の琵琶湖に夕方の波が立つ。その上を飛ぶ千鳥よ、おまえさんが鳴くと心も萎れて昔が偲ばれることだ。
『万葉集』にある、この柿本人麻呂の歌をご存知の方も多いでしょう。なお「しのに」とは草木が萎れる様、心の萎れる様を表す言葉。
この「千鳥」、古来から和歌の題材として好まれ、特に冬の景物とされてきました。現に、今読んでいる『新後撰和歌集』巻第六冬歌を見ても、千鳥を詠み込んだ歌だらけ。いちいち挙げ出すとキリがないですが、例えば
堀河院に百首歌奉りける時 権大納言公実
志賀の浦の 松ふく風の さびしさに
夕波千鳥 立居鳴なり
〈超意訳〉
滋賀の琵琶湖の岸辺に生える松、そこに吹き付ける風が余りに寂しげだからか、夕方の波の上を飛ぶ千鳥が、動いたり留まったりしながら鳴いている事だ。
なんて歌は人麻呂の歌を明らかに意識していますね。「志賀の浦」は琵琶湖沿岸地域一帯を指します。「立居」とは立ったり座ったりの所作で、波が起こって動くことを表す事も。おそらく、琵琶湖の波と千鳥の動きをかけていますね。
他にも
住吉社によみて奉りける百首歌の中に 皇太后宮大夫俊成
明石がた 月のでしほや みちぬらん
須磨の波ぢに ちどりとわたる
〈超意訳〉
明石の地の干潟で、月の出と共に潮が満ちてきたようだ。須磨の波の上を千鳥が渡っていくよ。
なんて歌は『源氏物語』須磨で冬の光景として千鳥があがっているのを連想させるものと言えそうな。「出潮」とは月の出に合わせて満ちる潮を指します。
さて、このように文学では冬の風物詩な千鳥ですが、チドリ類に属する鳥の生態は必ずしも冬に限定されるものではないようです。千鳥は鳥網チドリ目チドリ科に属する鳥の総称で、世界中で60種類程度知られているとか。南極大陸を除く世界中に分布しているだけあって、留鳥となるものもあれば渡り鳥となる種もあったりで生態は多様。体つきはずんぐりして、頭と目が大きく嘴が短めなのが特徴だそうで。大きさは雀ほどのものから鳩程度までとこれまた多様、多くは海岸や平地にいますが山地に棲むものもありと居住地も多様なようです。
なお、「浜千鳥」という言葉、筆跡・手紙・書物を表す意味で用いられるようにもなったそうです。
【参考文献】
『新後撰和歌集 上』
『日本大百科全書』小学館
『精選版 日本国語大辞典』小学館
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by trushbasket
| 2023-09-13 20:45
| NF








