2023年 09月 25日
歌枕「清見潟」〜三保の松原の対岸〜
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今回も例によって歌枕シリーズ、お題は「清見潟」。静岡市の興津から袖師にかけての海岸で、清水港を隔てた対岸が三保の松原にあたる場所です。庵原山地の麓にある清見寺がある辺りはかつては坂東への備えである関所(清見関)だったと言われています。三保の松原ともども名勝として『万葉集』以来多くの和歌に詠まれてきました。『万葉集』にある
庵原の 清見の崎の 三保の浦の
ゆたけき見つつ 物思ひもなし
〈超意訳〉
庵原の山、清見潟、三保の浦、これらが素晴らしい景色なのを見ていると思い煩うのが馬鹿馬鹿しくなる。
という歌は比較的知られているようです。なお「ゆたけし」とは「栄えている、素晴らしい」といった意味合い。
そして『新後撰和歌集』巻第八 羈旅を見ると。
清見がた 磯山つたひ ゆきくれて
こころと関に とまりぬるかな
〈超意訳〉
清見潟で磯部の山を伝って進むうち日が暮れてしまい、心のままに清見関で泊まる事だ。
さすらふる 心に身をも まかせずば
きよみが関の 月をみましや
〈超意訳〉
漂泊する心に身を任せて旅をするのでなければ、都から遠く離れた清見関の月を見る事などなかったろうなあ。
さらでだに かはかぬ袖ぞ 清見がた
しばしなかけそ 波の関守
〈超意訳〉
そうでなくても 旅の物思いによる涙で袖が乾く暇がないのだ。清見潟の関所で関守のように立ち塞がる波よ、しばらくは我が袖に打ち寄せないで欲しいものだな。
きよみ潟 うら風さむき よなよなは
夢もゆるさぬ 浪の関守
〈超意訳〉
清見潟の浦風は寒いので、波は関守のごとく毎晩夢を見ることも妨げてくることだ。
清見がた 打出てみれば いほ原の
みほの興津は 波しづかなり
〈超意訳〉
清見潟で広々とした所に出て見ると、興津の地の庵原の向こうに見える三保の沖は波も穏やかである。
と五首立て続けにこの地を題材にした歌が載せられています。それだけ、「旅の歌」におけるお決まりの歌枕の一つだったと見れそうですね。なお、「波の関守」とは関所の戸がある海岸で波を関守に見立ててこう呼ぶようです。
【参考文献】
『新後撰和歌集 中』
『日本大百科全書』小学館
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『大辞泉』小学館
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「歌枕「宇津の山」 駿河の難所〜附:『秋篠月清集』、宇都宮の蓮生信生兄弟〜」
by trushbasket
| 2023-09-25 21:48
| NF








