大正天皇御製漢詩『秋涼』
|
今回は久々に大正天皇御製漢詩を題材にしようかと。暑さ寒さが定まらない感じの天候ですが、漢詩の世界くらいはいかにもな秋を取り上げようかと。題は「秋涼」、大正四年(1915)の御製です。
秋涼
秋來薄露促蟲聲
淸夜階前喞喞鳴
在手齊紈不須動
箇中涼味愜幽情
秋来 薄露 虫声を促す
清夜階前 喞々と鳴く
手に在る斉紈 動かすを須いず
箇中の涼味 幽情に愜う
(石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店 232頁)
〈超意訳〉
秋がやってきたのか、微かに露が降りて虫の声もする。涼しく空気も澄んだ夜、宮殿の階段前で頻りに鳴いている。団扇を手にしているが、動かすには及ばない。ここの涼しさは、我が風雅を愛する心を満たしてくれる。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
⚪︎⚪︎⚫︎⚫︎⚫︎⚪︎◎
⚪︎⚫︎⚪︎⚪︎⚫︎⚫︎◎
⚫︎⚫︎⚪︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎
⚫︎⚪︎⚪︎⚫︎⚫︎⚪︎◎
転句が二六対でなく下三文字が⚫︎⚪︎⚫︎になってるのは、挟平格に相当します。韻脚は「声、鳴、情」の下平声八庚。
以下は、語句解説です。
・薄露
かすかに降りた露
・清夜
涼しく爽やかな夜、空気が澄んだ夜
・喞喞
「しょくしょく」と読むようです。虫がしきりに鳴くさまを意味します。
なお、こちらの詩でも「喞喞」は出てきます。
関連サイト:
「詩詞世界」(https://www5a.biglobe.ne.jp/~shici/index.htm)より
「木蘭詩」(https://www5a.biglobe.ne.jp/~shici/gushi38.htm)
・斉紈
斉の国で産出する白い練絹。ここでは、前漢の班婕妤『怨歌行』を踏まえてそれで作られた扇を意味するそうです。
・須
ここでは「もちふ」、必要とする。
・箇中
この中、ここだという場所。
・涼味
涼しさ
・幽情
深い心情。風雅な思い。
・愜
「適」「叶」と同様、「かなふ」。ここでは心のままになる、満足するという意味。
気候がなかなか定まらないご時世ですが、だからこそ秋らしい風情の漢詩を味わおう。そんな思いでご紹介いたしました。
【参考文献】
石川忠久編著『大正天皇漢詩集』大修館書店
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本大百科全書』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『普及版 字通』平凡社
『動植物名よみかた辞典 普及版』日外アソシエーツ
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
「日本漢字能力検定 漢字ペディア」(https://www.kanjipedia.jp)
関連記事:








