2024年 01月 16日
藤原為時の漢詩『雨為水上絲 以浮為韻』〜学者、詩人として知られた「紫式部の父」〜
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今年の大河ドラマ『光る君へ』の主人公、紫式部。その父・藤原為時は当代の学者である事は、劇中でも触れられていましたね。現時点では色々とパッとしない役回りですけども、今後はどうなっていくのやら。さて、今回はその為時の漢詩を一つご紹介しようかと。
雨為水上絲 以浮為韻 藤原為時
暮雨濛濛池岸頭
更爲水上亂絲浮
經從潭面霑難結
曳自波心脆不留
細灑應爭漁浦藕
斜飛欲貫釣磯鉤
誰知流下沈潜客
霜縷數莖夏裏秋
暮雨濛濛たり池岸の頭
更に水上の乱糸に為して浮かぶ。
経(たていと)は潭面従(よ)りして霑ひて結び難く、
曳は波心自(よ)りして脆くして留まらず。
細は灑ぎては漁浦の藕と争ふべく、
斜めに飛びては釣磯の鈎を貫かんとす。
誰か知らん流下沈潜の客の、
霜縷数茎 夏裏の秋
(小島憲之編『王朝漢詩選』岩波文庫 400頁)
〈超意訳〉
夕暮れの雨は池の岸辺をぼんやりと曇らせ、
水面で乱れた糸のようになって浮かぶ。
縦糸のように淵の水面から連なって濡れて結び難く、
引っ張られ波の真ん中から出て、形を留められぬほどに脆い。
細やかに降り注ぐさまは漁をする浦の蓮の根っこのようであり、
斜めに飛ぶと磯の釣り針の穴を通すかと思われる程だ。
どうして知りえようか。浦の流れの下で潜り漁をするかのように学問詩文に没入してきたこの身に、
霜のような白髪がいく束も現れて夏だというのに秋のような風情を呈するとは。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php )
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韻脚は「頭、浮、留、鉤、秋」の下平声十一尤。以下は語句解説です。
・濛濛
霧や霞が立ち込めるさま。
・乱糸
もつれて乱れた糸。
・経
織物の縦糸。
・従
「より」
・潭
淵。水を深くたたえたところ。
・霑
濡れてうるおう。
・曳
ひきよせる
・自
「より」
・藕
蓮のこと。
・鉤
釣り針。先端の折れ曲がった器具。
・沈潜
水底に沈み隠れる。心を沈め没入する意味にも。
・霜縷
細い白髪。「霜」は白髪の例えに用いられる事あり。「縷」は細い糸筋。
・茎
細いものを束ねたものを数える単位。
己の老いを意識して嘆く「歎老」は古来から漢詩の伝統的テーマであったそうですが、為時のこの作品もそれに則ったものといえそうですね。
【参考文献】
小島憲之編『王朝漢詩選』岩波文庫
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本大百科全書』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『普及版 字通』平凡社
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
『書きこみノート漢文句形』学研教育出版
「日本漢字能力検定 漢字ペディア」(https://www.kanjipedia.jp)
揖斐高『江戸漢詩の情景 風雅と日常』岩波新書
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by trushbasket
| 2024-01-16 22:18
| NF








