2024年 03月 21日
杜牧『江南春絶句』〜今更感はありますが、一応は次回への前振り〜
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寒かったり暖かかったり中々定まらないですが、春になりつつあるのは間違いないようなこの頃ですね。という訳で、今回は有名な春の漢詩を。お題は杜牧『江南春絶句』。この詩は杜牧の代表作でもあり教科書で見た覚えがあるレベルの作品なので、「何を今更」という感は正直あります。ただ、次回記事への前振りでもあり、その辺は御容赦願えたらと存じます。まあ、そう大層な話ではなく、この詩をある程度ご存知の方なら「ああ、あの話しか」となるであろう話題ですが。
言い訳はこの位にして、見て参りましょう。そういえば、杜牧の詩はこれまでもいくつかご紹介しましたが、杜牧本人についてお話しした事はなかったような。杜牧(803-852)は晩唐の詩人で、長安出身。字は牧之、号は樊川。崩壊寸前の唐王朝への苦渋を背景にした、清麗な語句と剛直な気概を併せ持つ詩風で知られ、今回ご紹介する『江南春絶句』以外にも『山行』『泊秦淮』『阿房宮賦』などが知られています。また詩だけでなく『孫子』に注釈を施した実績もあるそうです。盛唐の杜甫(大杜)と区別するため「小杜」と呼ばれる事もあります。
さて、いよいよ詩を鑑賞していきます。
江南春絕句 杜牧
千里鶯啼綠映紅
水村山郭酒旗風
南朝四百八十寺
多少樓臺烟雨中
千里 鶯啼いて 緑 紅に映ず
水村 山郭 酒旗の風
南朝 四百 八十寺
多少の楼台 煙雨の中
(松浦友久、植木久行訳『杜牧詩選』岩波文庫 17頁)
〈超意訳〉
遥か遠くまで鶯の鳴く声が響き渡り、新緑が赤い花と交じりあって映えている。
水辺の村でも山沿いの村でも、春風が酒屋の旗をはためかせている。
思えば南朝はかつて仏教が栄え、江南の地には本当に多くの寺が建立された。
その寺の高殿がどれほどたくさん、霧雨で霞む景色の中に建っていることだろう。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
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韻脚は「紅、風、中」で上平声一東。
以下は、語句解説です。
・水村
水辺の村。
・山郭
山沿いの村。
・酒旗
酒屋の看板として店頭に掲げた旗。
・南朝
如何に当ブログとはいえ、当然ながらここでは後醍醐天皇に始まる吉野の朝廷を意味しない。中国の南朝である。五世紀から六世紀にかけ東晋を受け継いで江南の地で興亡した宋、斉、梁、陳の王朝を指す。
・多少
ここでは「多くの」という意味で、「少」は助字である。
・楼台
高殿。高い建物。
・煙雨
煙るように降る雨。霧雨。
さて。転句の下五文字が全て仄声なのに違和感を感じた方もおられるでしょう。特に五文字目の「十」。ここが平声なら色々丸く収まるのに、と。そして、この転句が「なんちょう しひゃくはっしんじ」と伝統的に読み下される事をご存知の方も多いかと。この辺りのお話を、次回にさせて頂けたらと思います。といっても、そこまで踏み込める訳じゃないですが。
【参考文献】
小島憲之編『王朝漢詩選』岩波文庫
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本歴史地名大系』平凡社
『日本大百科全書』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『普及版 字通』平凡社
『動植物名よみかた辞典 普及版』日外アソシエーツ
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
「日本漢字能力検定 漢字ペディア」(https://www.kanjipedia.jp)
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「項羽の最期を巡り、漢詩は評す〜杜牧と王安石〜」歴史を題材にした詩も杜牧の得意分野。
随分と通俗的お説教な記事になってますがまあ。
by trushbasket
| 2024-03-21 20:00
| NF








