2024年 04月 04日
今度は藤原公任の漢詩〜『夏月勝秋月』〜
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藤原公任(966-1041)は藤原頼忠の子。頼忠が関白と太政大臣を歴任した事からわかるように、藤原氏の中でも名門と言える「小野宮家」の出身でしたが、藤原兼家の系統が政権を握ると彼らの後塵を拝するようになります。「四条大納言」とも呼ばれるように大納言までは昇進したものの、やがて文化的活動に比重を移し洛北長谷で出家隠遁しています。
漢詩、和歌、管弦を始め多芸多才な事で知られ、有識故実書『北山抄』や歌論書『新撰髄脳』『和歌九品』、私家集『拾遺抄』など多くの著作を残しています。有名なものとしては、漢詩二節一連や和歌に節をつけて歌う「朗詠」に適した名句を集めた『和漢朗詠集』なんてのも。
さて、前置きが長くなりましたが作品を見ていきましょう。
夏月勝秋月
月好雖稱秋夜好
豈如夏月惱心情
夜長閑見猶無足
況是晴天一瞬明
月の好きこと 秋夜の好きを称むると雖も、
豈如かんや 夏の月の心情を悩ますことに。
夜長くして閑かに見るも 猶し足ること無し。
況んや是れ 晴天に一瞬明らかなるをや。
(小島憲之編『王朝漢詩選』岩波文庫 397頁)
〈超意訳〉
月の眺めの良さ、となると秋の夜を世間の人は褒めるけれども、
心悩ましい夏の夜の月にどうして敵うだろうか。
秋の夜長に心静かに見てさえ月は飽き足りないのに、
晴れた夏の短夜に一瞬明るく輝くだけなら尚更の事ではないか。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
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韻脚は「情、明」の下平声八庚。七言なのに起句で韻を踏んでいませんが、実際には名作とされる詩でもままあるようです。
以下、語句解説。
・豈
「あに」と読みます。「どうして…であろうか」。
・夜長
夜が長い事、特に秋に夜が長く感じられる事。
・況
「いはんや」。「いうまでもなく」、といった意味。
月といえば秋が一番、という定番に敢えて異を唱える形(ただし、秋の月の素晴らしさ自体は否定していないのもポイント)で新たな景色の魅力を詠みあげている興味深い一編ですね。
【参考文献】
小島憲之編『王朝漢詩選』岩波文庫
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本歴史地名大系』平凡社
『日本大百科全書』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『普及版 字通』平凡社
『動植物名よみかた辞典 普及版』日外アソシエーツ
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
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公任は三十六歌仙を選んだ事でも知られます。
『小倉百人一首』では「大納言公任」としてお馴染みですね。
「寒山詩」でも月といえば秋のようで。
by trushbasket
| 2024-04-04 23:29
| NF








