2024年 04月 17日
一条天皇の漢詩『初蟬纔一聲』
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すみません、先週は更新を忘れてました。さて、大河ドラマ『光る君へ』では、いよいよ一条天皇が成人した姿で登場されましたね。演じておられるのは塩野瑛久さん。
それを記念して、という訳ではありませんが今回は一条天皇御製の漢詩をご紹介しようかと。お題は『初蟬纔一聲 以心爲韻』。早くも夏到来かと思わせる気候にもなってきた気がしますし、ちょうど良いかも。
初蟬纔一聲 以心爲韻
五月云來感自侵
初蟬纔報一聲吟
韻慵誰有重傾耳
響止空催再聽心
岸柳綠前驚欲認
宮槐風底失何尋
此時莫道天功淺
三伏夏闌滿禁林
五月云(ここ)に来る 感自らに侵され、
初蟬纔に報ず 一声吟。
韻慵くして 誰か有(も)たん重ねて傾く耳を、
響止みて 空しく催す再び聴く心を。
岸柳の緑の前に 驚きて認めんとし、
宮槐の風の底(うち)に 失ひて何にか尋ねん。
此の時道ふこと莫れ 天功の浅きを、
三伏夏闌にして 禁林に満ちん。
(小島憲之編『王朝漢詩選』岩波文庫 383-384頁)
〈超意訳〉
五月がやってきたのを感じ取ってなのか、
蝉がようやく一声、今年初めて鳴いた。
その調べは気怠るげでもう一度聞こうという気を起こさせないけれど、
いざ鳴き声がやんでしまうとまた聞きたいという思いが湧いてくる。
岸辺の柳のところで蝉を見た気がしてハッとなったが、
宮中の槐にふく風の中で見失ってどこにも見当たらない。
だからといって、今の段階で季節を巡らす天の計らいが不十分などと言いたもうな。
夏の盛り、暑い時期になれば宮中の林いっぱいに鳴き声が響き渡るだろうから。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
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サブタイトルで「心」で韻を踏むとある通り、韻脚は「侵、吟、心、尋、林」。今日での呼称は下平声十二侵。
以下、語句解説。
・云
ここでは、「云う」ではなく機能の弱い助字だそうで。
・初蝉
今年初めて鳴く蝉。『礼記』には、五月に初めて鳴くもの、という記載があるとか。
・纔
「わずか」、ここでは「やっとのことで」といったニュアンス。
・韻
ここでは、「響き」「音色」といった意。具体的にここでは蝉の鳴き声を言います。因みに漢詩の「韻」は句の末尾に繰り返される類似した音、という意。
・慵
けだるい、気が進まない。「懶」と類似。
・槐
えんじゅ。落葉高木で庭木などに用いられ、陰暦七月に黄白色の花をつける。乾燥させた花は止血剤となる。
・底
「うち」とルビが振られており、ここでは「中」と同様な意味か。
・道
「言う」「述べる」の意。
・天功
大自然の働き。
・三伏
夏の最も暑い時期。夏至の後の第三の庚を初伏、第四の庚を中伏、立秋後初めての庚を末伏と呼び、この三つを合わせこう呼ぶ。
・闌
「たけなわ」。盛り、もしくは盛りをやや過ぎた頃。
一条天皇の御代といえば、平安文学が栄えた時代のイメージですが、天皇御自身もまたその時代に相応しい才学を有する人物であられた事を象徴するような一編と言えそうです。
【参考文献】
小島憲之編『王朝漢詩選』岩波文庫
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本歴史地名大系』平凡社
『日本大百科全書』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『普及版 字通』平凡社
『動植物名よみかた辞典 普及版』日外アソシエーツ
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
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by trushbasket
| 2024-04-17 22:15
| NF








