2024年 04月 25日
藤原道長の漢詩をもう一篇『左右好風來』〜季節柄ちょうど良いかも〜
|
ここのところ、だんだんと暑くなってきましたね。さて最近、大河ドラマ『光る君へ』に便乗して平安貴族たちの漢詩をいくつかご紹介しています。そこで今回も、以前に続いてドラマの準主役たる藤原道長の漢詩をもう一つご紹介しようかと。お題は『左右好風来』。初夏にピッタリな題材かと思います。
左右好風來 以涼爲韻
好風來處慰心腸
左右飄衣夏日忘
橫釼腰閒連竹響
續銘座下送荷香
簾帷高捲雙衿動
羅綺閑居兩髩涼
唯樂前池無苦熱
月明白浪疊氷霜
好風来る処 心腸慰む、
左右衣を飄し 夏日を忘る。
剣を横たふる腰間 竹の響を連ね、
銘を続くる座下 荷の香を送る。
簾帷高く捲くに 双衿動き、
羅綺閑かに居るに 両髩涼し。
唯に楽しぶ 前池に苦熱無く、
月明らかにして 白波の氷霜を畳むことを。
(小島憲之編『王朝漢詩選』岩波文庫 395-396頁)
〈超意訳〉
心地よい風が吹いてくると心が慰められ、
あちこちから風が衣の袖を翻して夏の暑さも忘れてしまう。
剣を吊るしている腰のあたりには風に戦ぐ竹の音が響き、
銘文を書く座席のところには蓮の花の香りが漂ってきた。
部屋の簾を高く巻き上げると左右の衿が風で動き、
うすものの絹をまとい部屋でじっとしていると鬢に風が吹いてきて涼しい。
前庭の池には暑さを窺わせるものがなく、
月明かりの下で氷や霜を積み重ねたように白い波が立っているのをただ楽しむばかりだ。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
⚫︎⚪︎⚪︎⚫︎⚫︎⚪︎◎
⚫︎⚫︎⚪︎⚪︎⚫︎⚫︎◎
△⚫︎⚪︎⚪︎⚪︎⚫︎⚫︎
⚫︎⚪︎⚫︎⚫︎⚫︎⚪︎◎
⚪︎⚪︎⚪︎⚫︎⚪︎⚪︎⚫︎
⚪︎⚫︎⚪︎⚪︎⚫︎⚫︎◎
⚪︎⚫︎⚪︎⚪︎⚪︎⚫︎⚫︎
⚫︎⚪︎⚫︎⚫︎⚫︎⚪︎◎
韻脚は「腸、忘、香、涼、霜」の下平声七陽。サブタイトルにあるように、「涼」と同じ韻ですね。
以下、語句解説です。
・心腸
心の中。
・飄
旋風。ここでは、風に翻り舞うこと。
・釼
「剣」のこと。
・銘
金石、器物などに事物の功績をたたえ、来歴などを記したもの。漢文で各句字数をを同じにし、韻を踏む事が多い。
・簾帷
すだれと引幕。垂れ布。
・羅綺
綾のある薄衣。
・髩
「鬢」と同じ。耳際の髪。
・前池
家の前面にある池。当時の貴族邸宅(寝殿造)には、前庭の皆に中島のある池がある事が多かった。
・畳
同じものが重なる。
冒頭でも申し上げましたように、春が過ぎて初夏になりつつあるこの時期に味わうのには良い詩かもです。
【参考文献】
小島憲之編『王朝漢詩選』岩波文庫
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本歴史地名大系』平凡社
『日本大百科全書』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『普及版 字通』平凡社
『動植物名よみかた辞典 普及版』日外アソシエーツ
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
関連記事:
by trushbasket
| 2024-04-25 20:52
| NF








