2024年 05月 28日
頼山陽『攝州途上』〜徳川後期の文人、湊川合戦を偲ぶ〜
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恒例になってきた気はしますが、五月二十五日は湊川合戦の日。ご存知の方が多いかと思いますが、一応。湊川合戦は、1336年(延元元年、建武三年)に建武政権と敵対した足利尊氏が九州から大軍で都へ攻め上るのを、建武政権側の軍勢が兵庫で迎え撃った戦いです。新田義貞率いる建武政権側が敗れ、名将として知られた楠木正成はこの戦いで壮烈な討死を遂げています。
古来、多くの文人が正成の悲運に思いを馳せてこの戦いを日本漢詩の題材としてきました。そんな湊川を題材とした漢詩の中でも今回は、徳川後期を代表する文人である頼山陽の「攝州途上」をご紹介しようかと。 『山陽詩鈔 巻之下』に掲載されている作品だそうです。
攝州途上
酒家粉壁映晴波
官道乾沙度淤河
風景依然人欲老
楠公墓下十經過
(中村孝也編著『楠公遺芳』小学館 45-46頁)
酒家の粉壁 晴波に映じ
官道 乾沙 淤河を度る
風景 依然 人老いんと欲す
楠公の墓下 十たび経過す
〈超意訳〉
酒場の白壁は、晴天を受けて輝く川の波によく映えている。
お上が管理する街道のきちんと乾いた砂を踏み締めつつ、泥の堆積した川を渡る。
この辺りの景色は昔と変わらないのに、(初めて通った時と比べ)私は年老いたものだ。
それもそのはず、湊川で戦死した楠木正成公の墳墓の側を通り過ぎるのは、これで十回目になるのだから。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
⚫︎⚪︎⚫︎⚫︎⚫︎⚪︎◎
⚪︎⚫︎⚪︎⚪︎⚫︎△◎
⚪︎⚫︎⚪︎⚪︎⚪︎⚫︎⚫︎
⚪︎⚪︎⚫︎⚫︎⚫︎⚪︎◎
韻脚は「波、河、過」の下平声十歌。
以下、語句解説です。
・粉壁
白壁。胡粉(白色顔料)を用いた壁。
・官道
国費で設備、管理する道。
・乾沙
乾いた砂。
・度
わたる。
・淤
堆積した土砂。
・依然
変わらないまま。
・墓下
墓の側。
『楠公遺芳』に掲載されていた湊川関連の漢詩ではありますが、この詩では楠公さんを正面から取り上げた感じはないですな。そういえば「歎老」すなわち「我が身の老いを歎く」ことは漢詩の伝統的テーマの一つとされているそうですが、本作もそうした系譜の上にあると言えそうです。
【参考文献】
中村孝也編著『楠公遺芳』小学館
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本人名大辞典』講談社
『日本歴史地名大系』平凡社
『日本大百科全書』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
内海弘蔵著『新漢和辞典』宝文館
『中日辞典 第三版』小学館
『普及版 字通』平凡社
『動植物名よみかた辞典 普及版』日外アソシエーツ
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
揖斐高『江戸漢詩の情景 風雅と日常』岩波新書
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