2024年 07月 04日
葵は「逢ふ日」〜恋歌に用いられる花の話〜
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色々ありまして、しばらくお休みしてしまいました。ここのところ、事実上不定期更新になってますな。何とか踏ん張りたいところです。
さて、今回も和歌の話。『玉葉和歌集』巻第十二 恋歌四に以下のような歌のやり取りがあったので、それに出てきた花を題材にしようかと。
久しくをとせぬ人のもとへ祭の日葵につけて申つかはしける よみ人しらす
忘れにし そのかみ山の あふひ草
けふだにかけて 思ひ出すや
〈超意訳〉
貴方はもう忘れてしまった、あの当時に逢った私の事を、少しでも思い出してくれているでしょうか。神山の辺りにある賀茂の葵の祭である今日なのですから。
返し 前参議経盛
けふのみや 思ひいづらん あふひ草
われはこころに かけぬ日ぞなき
〈超意訳〉
貴方を思い出すのは、何も葵の祭である今日だけという事はない。私は貴方を忘れた事などはない。
さて、詞書にもある葵とは、ここではおそらく双葉葵。ウマノスズクサ科の多年草で、山の日陰に生育し二枚の心臓型の葉をつけ春に淡紅の花をつけます。賀茂神社の神事に用いられることから、平安貴族にとって特別な意味を持つ草花の一つになりました。「あふひ」と表記することから「逢ふ日」とかけて恋歌に用いられるのが通例です。
「祭」というのはまさしく賀茂の祭、いわゆる「葵祭」でしょうね。陰暦四月の中の酉の日、現在では五月十五日に行われる上賀茂神社・下鴨神社の祭です。葵の葉を社前や桟敷、牛車の簾、そして参礼する諸役の衣冠につける事でも知られてします。平安期には、ただ「祭」といえばこの祭礼を意味したそうです。
あと、ついでにその他の語句解説も。
・そのかみ
当時。過ぎたその時。
・神山
ここでは、賀茂別雷神社(上賀茂神社)の後方にある山。御生山。標高302メートル。歌枕でもある。
・だに
〜だから、〜なのに
・かけて
ふと、少しでも。
なお、「あふひ」のこうした用例については、『古今和歌集』巻第十にある
あふひ かつら
かくばかり あふひの稀に なる人を
いかがつらしと 思はざふべき
〈超意訳〉
このように逢瀬も稀になってしまった人を、どうして辛さと共に想いを寄せない筈があろうか。
という歌が文献上は古いものとして知られているようです。
【参考文献】
『玉葉和歌集下之一』吉田四郎右衛門尉刊行
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『大辞泉』小学館
金子元臣著『古今和歌集評釋』明治書院
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賀茂の地は太古の時代から京の歴史を語る上で外せぬ地であったようです。
by trushbasket
| 2024-07-04 22:43
| NF








