2024年 07月 09日
頼山陽『日本楽府』で、今年の大河場面を回想〜『七日関白』〜
|
大河ドラマ『光る君へ』、今週は残念ながら放送休止。年も半ばを過ぎ、話が折り返しの見せ場に入ってきそうな辺りとなりました。
という訳で。今回は、『光る君へ』の時代を題材にした漢詩を鑑賞しようかと思います。久々に頼山陽『日本楽府』を読み返したら、その中に『七日関白』なんてのがありましたので。
「楽府」とは何かについてははこちらで触れましたので、ここでは繰り返さない事にします。まあ、「平仄に明らかな規則性を見いだせない」「韻が何度か変化しうる」など絶句や律詩と比べて自由度が高い古いスタイルの漢詩だという事をここでは把握していただければ、と。
「七日関白」というタイトルでお分かりの通り、題材は藤原道兼。ドラマでは悪役として登場しながら、ストーリーが進むにつれ視聴者の感情移入を巧みに誘い惜しまれながら退場するキャラクターになっていましたな。
さて、件の楽府は道兼の見せ場(?)の一つ、花山天皇出家の場面がテーマです。では、見ていきましょうか。
七日關白
宮門月明宮漏遲
天子欲出猶遲疑
微雲蔽月君速出
太史門前促君馳
君先薙髮臣辭父
父撫掌 子起舞
表姪爲帝爺當國
吾博七日關白職
宮門月明らかにして宮漏遅し。
天子出でむと欲して猶遅疑す。
微雲月を蔽ひて君速に出づ。
太史門前も君を促して馳す。
君は先づ髪を薙ぎ、臣は父に辞す。
父は掌を撫し、子は起ちて舞ふ。
表姪は帝と為り、爺は国に当る。
吾は博す七日の関白職。
(渡部昇一『甦る日本史1古代・貴族社会篇』PHP文庫より。読み下しのみ、旧字体は新字体に改めています)
〈超意訳〉
宮廷の門を月が明るく照らし、水時計が時を告げる動きは緩やかだ。
花山天皇は出家すべく御所を出ようとするが、猶も躊躇っておられるようだ。
薄雲が月を覆い隠して見咎められる恐れもなくなり、帝は急いで出立される。
太史の門の前も道兼は帝を急いで促して行き過ぎた。
帝が先立って剃髪されたというのに、お供して出家すると約束した筈の臣下たる道兼は父に別れを告げると謀って帝を残し立ち去ってしまった。
父兼家は陰謀がうまくいったと手を擦り合わせて喜び、子は立ち上がって舞い祝福する。
かくして、外甥にあたる一条天皇が即位し、兼家は外祖父として国政を掌握した。
そして、己もやがて七日ではあるが関白職を得たのである。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
⚪︎⚪︎⚫︎⚪︎⚪︎⚫︎⚪︎(韻1)
⚪︎⚫︎⚫︎⚫︎⚪︎⚪︎⚪︎(韻1)
⚪︎⚪︎⚫︎⚫︎⚪︎⚫︎⚫︎
⚫︎⚫︎⚪︎⚪︎⚫︎⚪︎⚪︎(韻1)
⚪︎⚪︎⚫︎⚫︎⚪︎⚪︎⚫︎(韻2)
⚫︎⚫︎⚫︎ ⚫︎⚫︎⚫︎(韻2)
⚫︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚫︎(韻3)
⚪︎⚫︎⚫︎⚫︎⚪︎⚫︎⚫︎(韻3)
韻を踏んでいる箇所は「遅、疑、馳」が上平声四支、「父、舞」が上声七麌、「国、職」が入声十三職だそうです。
以下、語句解説です。
・天子
ここでは、花山天皇。藤原道兼が唆して出家・退位させた事で知られる。以降の句の「君」も同じです。
・宮漏
宮中にある水時計。漏刻。
・遅疑
躊躇ってすぐに実行しないこと。
・太史
天文・暦法、法規や宮廷内記録などを司った役職。ここでは、安倍晴明が天体の異常から花山天皇の退位を予測したという逸話を念頭に置くか。
・薙髪
髪を剃り落とすこと。剃髪。
・表姪
「表」とは母方の親戚。「姪」は現在は「めい」(兄弟姉妹の生んだ女の子)のみを意味するが、昔は「おい」(甥、兄弟姉妹の生んだ男の子)をも意味した。ここでは一条天皇。
・博
得る。
・七日関白
道兼は、関白就任の奏慶後七日(在任は十一日)で没したためこう呼ばれる。
【参考文献】
渡部昇一『甦る日本史1古代・貴族社会篇』PHP文庫
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本歴史地名大系』平凡社
『日本大百科全書』小学館
『改訂新版 世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『中日辞典 第三版』小学館
『普及版 字通』平凡社
服部宇之吉、小柳司氣太『詳解漢和大字典』冨山房
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
関連記事:
道兼が「七日関白」となったのは、一条天皇時代のこと。
兼家や道兼らが花山天皇に出家をそれとなく促すため見せた偈の話も。
花山天皇の末裔に端を発する「花山源氏」も存在します。
by trushbasket
| 2024-07-09 21:14
| NF








