2024年 11月 18日
一条天皇御製漢詩『書中有往事』〜好学な帝王の真摯な感懐〜
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大河ドラマ『光る君へ』も終盤近くなり、あの「望月の歌」も登場。そんな中ですが、懐古するかのように今回は一条天皇の漢詩を。已にドラマは後一条の御代ですけどね。題は「書中有往事」。では、見ていきましょう。
書中有往事
閑就典墳送日程
其中往事染心情
百王勝躅開篇見
萬代聖賢展卷明
學得遠追虞帝化
讀來更恥漢文名
多年稽古屬儒墨
緣底此時不泰平
(筒野道明講述『和漢名詩類選評釈』明治書院 7頁)
閑に典墳に就いて日程を送る。
其の中の往事心情に染む。
百王の勝躅篇を開けば見え。
万代の聖賢巻を展ぶれば明かなり。
学び得て遠く追ふ虞帝の化。
読み来つて更に恥づ漢文の名。
多年稽古儒墨に属す。
底に縁つてか此の時泰平ならざる。
(同書 7-8頁)
〈超意訳〉
暇があれば三皇五帝に関する本を見て日々学んでいる。
その中に出てくる昔の出来事が朕の心を打ってやまない。
多くの帝王の優れた事績は書物を開けば目に入ってくるし、
歴代の聖人賢者の行いもまたそこにははっきりと記されている。
学んでから、遠く及ばぬながらも手本にしているのは舜帝の徳による教化であり、
読み至った際に我が身を顧みて恥じずにいられないのは、漢の文帝の英明さである。
長年に渡り朕は儒家や墨家の教えに沿って統治のための古来からの道について考えてきたのだが、
何故に朕の治世は泰平とはいかぬのだろうか。朕の不明不徳によるものだろうな。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
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韻脚は「程、情、明、名、平」の下平声八庚。
以下、語句解説です。
・典墳
「三典五墳」の略、伝説の理想的君主「三皇五帝」に関する書物。
・日程
日々。
・百王
代々の天子。
・勝躅
勝迹とも。優れた事績。躅は跡の意。
・虞帝
三皇五帝の一人、舜のこと。有虞氏。その先祖が虞の地に封ぜられた事から。
・化
ここでは教化のこと。教え導き従わせること。
・漢文
前漢の文帝(位前180-前157)。第五代皇帝で、かつて権勢を握った呂氏が誅滅された後に擁立された。民政の安定に努め国力を蓄えた名君と評される。
・稽古
古来の道義について考える。
・儒墨
儒教と墨子の教えと。墨子は博愛と平和と節倹を説き実践に努めた古代中国の思想家。
・底
「なに」と読む。「何」と同じ。
帝王としての真摯な思いが伝わる、一条天皇らしい御製であるなあ、と拝見した一編でありました。
【参考文献】
筒野道明講述『和漢名詩類選評釈』明治書院
『日本大百科全書』小学館
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『世界大百科事典』平凡社
『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』ロゴヴィスタ
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『中日辞典 第三版』小学館
『普及版 字通』平凡社
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
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