2024年 11月 27日
賈島『題李凝幽居』〜意外と知られてない、故事成語「推敲」の元ネタの詩〜
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文章の手直しをする、という意味の「推敲」という言葉がある事はご存知の方も多いかと思います。そしてこの言葉が唐の時代に由来する故事成語だという事もある程度知られているでしょう。
『唐詩紀事』や『苕渓漁隠叢話』によれば。科挙を受験すべく都に上ってきた賈島は、道中で驢馬に揺られながら詩を練っていました。その中の一句を「僧推月下門」としたものの、「推」(押す)を「敲」(叩く)に改めた方が良いのではないかとも迷っているうちにうっかり都の長官の行列にぶつかってしまいました。長官の前に連行された賈島は経緯を正直に述べたところ、長官は「敲」の方が良い、と助言したのだそうです。この長官こそ当時の文壇大御所でもあった韓愈。二人は意気投合し、轡を並べて帰ったといいます。
この逸話、教科書などで知った方もおられるのでは。
賈島(779-843)は范陽(河北省)の人で字は浪仙。当初は無本という名の僧侶でしたが還俗、長江主簿や普州司倉参軍になっています。一字一句を苦吟して生み出す事で知られ、表現が険しく苦い響きを帯びていると評されます。韓愈(768-824)についてはこちらを。
さて。「推敲」という語や基になる故事は相応に知られているものの。この時に賈島が練り上げていた詩がどんなものだったか、については知られていないようです。そこで今回はその詩を見ていこうかと。詩の題は『題李凝幽居』。
題李凝幽居 賈島
閑居少鄰並
草徑入荒園
鳥宿池邊樹
僧敲月下門
過橋分野色
移石動雲根
暫去還來此
幽期不負言
(池田四郎二郎『故事熟語大辞典』宝文館 808頁)
閑居 隣並少なく
草径 荒園に入る
鳥は宿る 池辺の樹
僧は敲く 月下の門
橋を過ぎて 野色を分かち
石を移して 雲根を動かす
暫く去り 還た此に来たる
幽期 言に負かず
〈超意訳〉
俗世間を避けた静かな住まいは隣近所の家もまれで、
草の茂った小道を行けば荒れた庭園へと続いていく。
鳥は池の辺りの樹で羽を休めており、
訪れた僧侶は月明かりの下、家の扉を叩く。
橋を渡ると野原の景色も雰囲気が変わり、
庭には石を他所から移してあるのでそこから雲が立ち上るかのよう。
暫くこの地を去っていたが再びやって来た。
隠者な友との密やかな風雅の約束について、言葉を違えはしない。
詩の形式は五言律詩。平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。律詩の規則はこちらで触れています。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
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韻脚は「園、門、根、言」の上平声十三元。
以下、語句解説です。
・李凝
人名のようです。詳細不明。
・幽居
俗世間を避けた静かな住まい。
・閑居
「幽居」に同じ。
・草径
草の茂る小道。
・荒園
荒れ果てた庭園。
・敲
「たたく」
・分
はなれる、区別する。
・野色
野原の景色。
・雲根
雲の生じるところ。転じて、高山、山の岩石。
・幽期
奥深い約束。
「推敲」もしくは「僧敲月下門」は知っていても詩そのものは見る機会があまりありませんでした。なので、今回ご紹介した次第です。
【参考文献】
池田四郎二郎『故事熟語大辞典』宝文館
『故事成語を知る辞典』小学館
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『日本大百科全書』小学館
『改訂新版 世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『中日辞典 第三版』小学館
『普及版 字通』平凡社
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
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