2024年 12月 16日
『偶成』「少年老い易く学成り難し 一寸の光陰軽んずべからず」〜実は朱熹の作じゃない?〜
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今回も故事成語と漢詩シリーズ。今回は「少年老い易く学成り難し」「一寸の光陰軽んずべからず」がテーマ。
前者は「人間、若いと思っていてもすぐに年老いてしまうものだが、それに反して学問はなかなか一人前にはならない」、後者は「わずかな時間であっても決して無駄にしてはいけない」という教訓ですね。
この二句の元ネタになった詩、南宋の儒者・朱熹『偶成』とされてきました。しかし、問題の詩の作者は朱熹ではないのではないか、と近年ではされているそうです。
それはさておき、まずは詩を見ていきましょうか。
偶成
少年易老學難成
一寸光陰不可輕
未覺池塘春草夢
階前梧葉既秋聲
(筒野道明講述『和漢名詩類選評釈』明治書院 11-12頁)
少年老い易く学成り難し。
一寸の光陰軽んず可からず。
未だ覚めず 池塘春草の夢。
階前の梧葉 已に秋声。
〈超意訳〉
人間、若いと思っていてもすぐに年老いてしまうが、なのに学問というやつはなかなか一人前にはなれない。
だから少しの時間でも無駄にせず学ばなくてはいけない。
池の堤に咲いている花を楽しみつつ見た夢がまだ覚めていない心地がするのに、
庭先にある青桐の葉はそよいで秋を告げているではないか。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
●○●●●○◎
●●○○●●◎
●●○○○●●
○○○●●○◎
韻脚は「成、軽、声」の下平声八庚。以下、語句解説です。
・偶成
偶然にできた作品。
・一寸
ほんの少し。元来は長さの単位で約3.03mm(曲尺)または3.79mm(くじら尺)。
・光陰
光は太陽、陰は月。年月、月日のこと。
・池塘
池の堤。
・階前
階段の前。庭先。
・梧葉
アオギリの葉。
・秋声
風の音や木の葉のそよぎなど秋を感じさせる気配。商声とも。
実はこの詩、朱熹の詩文集には見当たらないそうで。では、出典はどこなのかと言えば。近世に五山禅僧の詩を編纂した『翰林五鳳集』には惟肖得巌による作品として収録されているのが指摘されているそうで、近年では彼が作者だという説が有力になりつつあるとか。まさかの日本漢詩疑惑。『翰林五鳳集』では詩の題も「進学軒」として載ってるんだそうです。
惟肖得巌(1360-1437)は備後出身、号は蕉雪。南禅寺少林院で草堂得芳に参禅、その後も絶海中津や蔵海性珍、夢巌祖応といった錚々たる禅僧たちから教えを受けました。やがて五山の万寿寺・天竜寺・南禅寺に住して将軍足利義持にも帰依を受けて南禅寺内少林院双桂軒に迎えられ晩年はそこで隠棲しています。詩文の才に定評があり五山文学における中心人物の一人で『東海瓊華集』などを著しているそうです。
【参考文献】
筒野道明講述『和漢名詩類選評釈』明治書院
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『故事成語を知る辞典』小学館
『日本大百科全書』小学館
『改訂新版 世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『中日辞典 第三版』小学館
『普及版 字通』平凡社
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
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この『清明』も作者が誰か、に疑念が呈されているそうです。
by trushbasket
| 2024-12-16 21:58
| NF








