2024年 12月 23日
曹松『己亥歳』〜故事成語「一将功成って万骨枯る」の元ネタ〜
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今回取り上げる故事成語は「一将功成って万骨枯る」、元ネタは曹松の七言絶句『己亥歳』の結句です。例によって、今回もその詩の全体を取り上げる記事になります。
「一将功成って万骨枯る」とは、一人の将軍の輝かしい功名の陰に落命した多数の無名兵士の屍がある、と成功者ばかりが名声を得るのを嘆く言葉。
作者である曹松(830?-901)は舒州(安徽省)の人で、七十を過ぎて科挙に合格したもののその年に亡くなったそうです。唐末の戦乱・黄巣の乱の惨禍を嘆いたこの詩で名を残しています。
己亥歳
澤國江山入戰圖
生民何計樂樵蘇
憑君莫話封侯事
一將功成萬骨枯
(筒野道明講述『和漢名詩類選評釈』明治書院 836頁)
沢国の江山 戦図に入る。
生民 何の計か 樵蘇を楽しまん。
君に憑む 話ること莫かれ 封侯の事。
一将 功成って万骨枯る。
〈超意訳〉
沼沢の多いこの地域の自然も、この乱で戦場になってしまった。
ここの民は、木を切ったり草を刈ったりといった日々の営みすら、享受する事がままならない有様だ。
だから君、お願いだから、今回戦功をあげた誰々が恩賞で諸侯になって云々、なんて話はやめておくれ。
将軍一人が功績を挙げたその陰には、知られる事なく落命した多数の兵士の屍が朽ちているものだから。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
●●○○●●◎
○○○●●○◎
○○●●○○●
●●○○●●◎
韻脚は「図、蘇、枯」の上平声七虞。以下、語句解説です。
・己亥
十干と十二支の組み合わせの三十六番目。
・沢国
沼や沢の多いところ
・江山
山と川。山水。
・戦図
戦場の図面、転じて戦場の範囲。
・生民
たみ。人民。
・樵蘇
木を切る事、草を刈る事。
・憑
ここでは、「頼りにする」。
・封侯
諸侯として封じる。転じて諸侯その人。
戦乱の惨禍を現実の経験として味わった痛切さが伝わりますね。この乱で「功成って」「封侯」された将たちこそが次の時代の担い手になっていくのは、それを思うと考えさせられるものが。
【参考文献】
筒野道明講述『和漢名詩類選評釈』明治書院
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』ロゴヴィスタ
『日本大百科全書』小学館
『改訂新版 世界大百科事典』平凡社
『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞出版
『日本人名大辞典』講談社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『中日辞典 第三版』小学館
『普及版 字通』平凡社
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
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