2025年 01月 15日
萩や月以外での歌枕「高円山」〜やはり秋のイメージな地名みたいです〜附:秋の季語「砧」
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久しぶりに歌枕に関する話題を。以前、奈良の「高円山」に関するお話をいたしました。萩とか月とかが詠み込まれる、秋と結びつく場所だ、という事に触れたかと思います。
今回、『続千載和歌集』を読んでいて、萩でも月でもないシチュエーションで高円山がうたわれたケースを見かけたので、補足をと思いまして。
その歌を見かけたのは歌集の巻第五秋歌下。
家七百首歌合し侍けるに風前擣衣 光明峯寺入道前摂政左大臣
衣うつ 砧の音も 高円の
山の木葉に 秋風ぞふく
〈超意訳〉
砧で衣を叩く音がする。そんな高円山の木の葉に、秋風が吹いているよ。
嘉元百首歌奉し時擣衣 法印定為
高円の 尾上もさむき 秋風に
袖つき衣 たれかうつらん
〈超意訳〉
高円山の頂も秋風がふいて寒くなる中、砧を打つ音がする。袖付きの衣を誰が叩いているのだろう。
どちらの歌も、秋の高円山を題材にしていますが萩も月も出てきません。代わりにうたわれているのは、「砧」。今では馴染みのない言葉ですな。という訳で、解説。
「きぬいた」が変化したもので、織り上げた布や洗濯した衣を槌で打って柔らかくし、艶を出すために用いる木や石の台を指すそうです。そこから転じて、布を打つ作業そのものをも意味します。夜の長い秋に行う仕事とされ、秋の季語。詞書にある「擣衣」という言葉も、砧で布を打つ事を意味するとか。
なお、『続千載和歌集』では、他にも「常盤の里」や「深草」「御吉野」を題材にした「砧」の歌も収載されています。
常盤の里は京都市右京区、双ヶ岡の南西。源常(ときわ)の山荘があった事に由来するとか。『山家集』でも初秋月という題での歌があったりするようで、やはり秋と結びつきやすい地名なのかも。深草は京都市伏見区北部の地名で、貴族の別荘地だった所です。鶉、月、雪、露など秋や冬の物寂しさと結びつけて歌で詠まれる事が多いようです。御吉野とは、吉野山の美称。春の桜なイメージの地ですが、平安期には雪の山として詠まれる事も多かったそうです。
『続千載和歌集』における「高円山」の歌をきっかけとして、秋の風物詩「砧」やそれが詠み込まれる他の歌枕についてもお話が及びました。なかなか有意義な余談になったかもです。…一月にする話題ではない気はしますが、それはそれ。
【参考文献】
『続千載和歌集 上之一』吉田四郎右衛門尉刊行
『改訂新版 世界大百科事典』平凡社
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『大辞泉』小学館
関連記事:
光明峯寺前摂政左大臣こと九条道家の歌はこの記事にも。
この地も「砧」の題材として詠み込まれています。
仁明天皇は「深草帝」とも。後深草天皇という天皇もいました。
by trushbasket
| 2025-01-15 21:55
| NF








