2025年 01月 21日
斎藤監物『題兒島高德書櫻樹圖』〜南北朝人物を題材にした七言律詩〜
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漢詩から見る故事成語も一段落したので、久々に南北朝と漢詩ネタを。今回取り上げるのは斎藤監物『題兒島高德書櫻樹圖』です。南朝の忠臣を題材にした七言律詩。
児島高徳は南北朝時代における南朝の忠臣とされる人物。後醍醐天皇が元弘の変で捕らえられ隠岐に流される道中、救出を目論むも断念。せめてもと桜の木に「天莫空勾践 時非無范蠡」と書き付けてまだ味方はいる事を知らせ天皇を励ました逸話で知られます。彼については昔まとめた事がありますので、興味のある方はこちらを。今から見ると少し古い内容かもですが。
詩の作者である斎藤監物(1822-1860)についても。常陸生まれの尊攘運動家で、加倉井砂山や藤田東湖に学び桜田門外ノ変に参加して重症を負い亡くなっています。
では、見ていきましょう。
斎藤監物 題兒島高德書櫻樹圖
踏破千山萬嶽煙
鸞輿今日到何邊
單蓑直入虎狼窟
一匕深探鮫鰐淵
報國丹心嗟獨力
回天事業奈空拳
數行紅淚兩行字
付與櫻花奏九天
(筒野道明講述『和漢名詩類選評釈』明治書院 496-497頁)
踏み破る 千山 万岳の煙
鸞輿 今日 何れの辺にか到る
単蓑 直ちに入る 虎狼の窟
一匕 深く探る 鮫鰐の淵
報国の丹心 独力を嗟き
回天の事業 空拳を奈んせん
数行の紅涙 両行の字
桜花に付与して九天に奏す
〈超意訳〉
靄のかかる山をいくつも歩き回って追いかける。
隠岐へと流される後醍醐帝の輿は今、どのあたりにおわすのであろう。
蓑を纏って単身、虎や狼の如く危険な敵中に潜入し、
短刀一本を頼りに鮫や鰐のように凶暴な敵地を探索するのだ。
国の恩に報いようという真心も、我が身一つではどうにもならぬのを嘆く。
天下を動かす大事を志しながらこの無力を如何ともしがたい。
血涙を流しながら二行の詩句を、
花咲く桜の木に書き添えて帝に忠義の臣がまだある事をせめてお知らせするのだ。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
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韻脚は「煙、辺、淵、拳、天」の下平声一先。
以下、語句解説です。
・踏破
踏み破る、歩き回る。
・鸞輿
天子の乗る輿。ここでは、後醍醐天皇を指す。
・単蓑
蓑一つ。ここでは「単身」と同様。
・虎狼
トラとオオカミ。残忍なたとえ。
・一匕
一本の短刀。
・鮫鰐
サメとワニ。虎狼と同様なニュアンスか。
・丹心
まごころ。
・嗟
嘆く。
・回天
時勢を一変させること。
・奈
いかんせん。どうしようもない。
・空拳
徒手空拳。頼るべき手段がないこと。
・紅涙
血涙。悲嘆に暮れて流す涙。
・九天
大空。転じて、宮中、九重。ここでは後醍醐天皇を指すか。
【参考文献】
筒野道明講述『和漢名詩類選評釈』明治書院
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』ロゴヴィスタ
『日本大百科全書』小学館
『改訂新版 世界大百科事典』平凡社
『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞出版
『日本人名大辞典』講談社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『中日辞典 第三版』小学館
『普及版 字通』平凡社
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
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by trushbasket
| 2025-01-21 20:59
| NF








