2025年 05月 01日
「児島高徳の漢詩」〜南朝関連の説話集『芳野拾遺物語』から〜
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先日、『和漢百人一詩』なる大正期の漢詩本を古書店で手に入れました。パラパラめくっていると、児島高徳が作った七言絶句なるものが。こんな内容でした。
舊爐殘火
東風吹暖入家家
想像九衢塵裏嘩
不識世閒春色遍
舊爐殘火去年花
(岩垂憲徳著『和漢百人一詩』昭文堂 6-7頁)
東風暖を吹いて家家に入る
想像す九衢は塵裏に嘩しきを
世間春色の遍きを識らず
旧炉の残火は去年の花
〈超意訳〉
春風が家家に暖かさを送り込んでおります。
思いを寄せますに、都の衢はさぞかし賑やかな事でしょう。
世間には春の気配があちこちで見られるというのに、それに気づかないのか、
古い炉で燃え残っている火は、去年からのモノであります。
平仄及び押韻は下記の通り。○が平声、●が仄声、△はいずれも可、◎は韻脚になります。平仄を始めとする漢詩の規則については、こちらをご参照ください。下にあるサイトも参考にしました。
関連サイト:
「平仄くん」(http://kanshi.work/pinyin/index.php)
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韻脚は「家、嘩、花」の下平声六麻。
以下は、語句解説です。
・東風
春の風。
・九衢
各方面に通じる街路。都大路。転じて都。
・塵裏
世俗のうち。
・嘩
「譁」と同様。かまびすしい。
なお、この詩ですが『芳野拾遺物語』巻第三に、高徳が越の国から書状に添えて吉野の朝廷に奏上したものとして記されています。
『芳野拾遺物語』とは南朝関連の逸話集で、正平年間の成立で筆者は「隠士松翁」とされていますが詳細不明。『太平記』や『神皇正統記』などを参考に偽作したものではないかとされますが、『塵塚物語』との関わりから遅くとも1552年までには成立していると見られています。後醍醐天皇の吉野遷幸に始まり後村上時代までにかけて、筆者が見聞した南朝に関わる和歌説話や神仏霊験、遁世、怪異、武勇、悲恋など様々な逸話を記したものだそうです。35話を収める二巻本と更に29話を収めた三巻本・四巻本があります。
という事は、少なくとも戦国中期までには「児島高徳の漢詩」なるものが世に出されていた、という事になりますね。児島高徳は『太平記』でも桜の幹に詩句を書きつけた逸話で知られますから、そこから漢詩の逸話ができたのかもですな。それにしても七言絶句の体裁が整っているあたり、たとえ後世の仮託であるにせよ作者は讃えられて良い気はします。
【参考文献】
岩垂憲徳著『和漢百人一詩』昭文堂
『児島備州補伝 上』石阪堅壮
『芳野拾遺物語 三』北村四郎兵衛
『精選版 日本国語大辞典』小学館
『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』ロゴヴィスタ
『日本大百科全書』小学館
『改訂新版 世界大百科事典』平凡社
『大辞泉』小学館
『大辞林』三省堂
『中日辞典 第三版』小学館
『普及版 字通』平凡社
『角川新字源改訂版』角川書店
新田大作『漢詩の作り方』明治書院
菅原武『漢詩詩語辞典』幻冬社ルネッサンス
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